中央アジアに位置するタジキスタン。旧ソ連から独立後に内戦に突入し、いまも深刻な貧困に悩まされている。こうした中、生活のために多くの女性が望まない結婚を強いられ、花嫁として“女性を売る”ビジネスも存在している。その実態を取材した。
取材班が向かったのはタジキスタンの首都・ドゥシャンベ近郊の農村。農場や牧場を経営するある男性を訪ねた。男性は自分の妻を紹介してくれた。
男性「1人目のディリャラ(50)です。2人目のグリャラ(40)です。3人目のメリカ(30)です」
1人の男性に、3人の妻。イスラム教徒が9割を占めるタジキスタンでは、裕福な男性が、複数の妻をもつ慣習がいまも残っている。
グリャラさん(23年前に結婚)「生活が貧困だったのでそうしたのです」
タジキスタンではソ連から独立した翌年の1992年から1997年にかけて内戦が勃発。国は疲弊し、厳しい経済状態がいまも続いている。平均月収は、日本円で約1万5000円。貧困を背景に、望まない結婚を強いられる女性がたくさんいる。
女性を、花嫁として海外に売るビジネスも存在している。仲介人の1人に話を聞くことができた。仲介人の女性が取り出したのは、一冊のノート。そこには国外の男性との結婚を希望している18歳から26歳の女性33人の写真が貼られ、それぞれプロフィールが記されていた。
仲介人「女性の両親が賛成し、男性が金を支払えば結婚式を行うのです。仲介料は500ドル(約6万円)とか800ドル(約9万6000円)もらっています。これは罪にはなりません。結婚するのだから問題ないのです」
このビジネスは違法ではないという仲介人。結婚の実態が伴えば、法律に定められた違法な人身売買にはあたらないと話す。弁護士によると、性的な目的の場合などの人身売買は罪になるが、結婚であればタジキスタンをはじめ世界中にある慣習とみなされるという。
この仲介人を通して、アラブ首長国連邦のドバイに花嫁として向かうという23歳のシャブナンさんに出会った。パン工場を経営する男性の妻になる見込みだ。父親のアリクルさんは、アルバイトを転々としながら子供を育ててきた。いまは、近所の子供たちにお菓子を売って、わずかな収入を得ているが、家族13人が暮らすには生活費も、家の広さも、十分ではないという。
母親・ズライホさん「子供が成長し、食べ物もお金も足りません」「町で勉強させたいが、貧乏だから、服を買うお金もありません」
父親・アリクルさん「この国ではお金を稼ぐ方法がないので、娘がどこに住んだとしても、幸せになって、私たちを経済的に支援してほしいです」
両親や兄弟を助けるために、シャブナンさんは、ドバイの男性と結婚することを決めたのだという。引き替えに、男性側からシャブナンさんの両親には約7000ドル(約84万円)が支払われる見込みだ。
シャブナンさん「両親を許せないという思いはありません」「家族には今よりもっと大きな家に住んでもらいたい」「生活が良くなってほしい」
しかしこんな本音ものぞかせた。
シャブナンさん「遠いところよりも、ふるさとで結婚したいです」
シャブナンさんが家を出る前日、近所の写真店に父と娘の姿があった。アリクルさんは、娘の写真を家に残したいのだという。
アリクルさん「きれいな娘ですよ」
父と娘に残されたわずかな時間。最後に2人で訪ねたのは家の近くの川だった。
シャブナンさん「子供のころはここで遊んだり、お話ししたり、川で泳いだりしました」「ここにいると幸せを感じます」
翌朝、シャブナンさんは仲介人の女性と共に家を出た。首都・ドゥシャンベで10日間ほど花嫁学校に通ったあと、ドバイへ旅立つという。母のズライホさんが、シャブナンさんが乗ったバスへ向かう。23年間を共に過ごした娘との別れ―
ズライホさん「無事に到着するように神様にお願いしましょう。泣いてしまったわ」
一方、父のアリクルさんの手には、昨日、撮影したばかりのシャブナンさんの写真があった。
アリクルさん「壁に飾りたいです。寂しくなったらこれを見て娘のことを思い出します」
バスは出発。シャナブンさんは、家族に見守られながら生まれ育った家を後にした。
貧困にあえぐ家庭では、いまも、女性たちが望まぬ結婚という選択を強いられている。