融資基準や参加国の発言権など、具体的なことが明らかにされていない中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、なぜ誕生することとなったのか。習近平国家主席ら中国指導部を突き動かしているのは、AIIBを利用して減速傾向が著しい中国経済を立て直すという私利私欲だけなのだ。ジャーナリストの相馬勝氏が、その正体を暴く。
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AIIBの創設の経緯について、北京の外資系金融関係筋は中国政府の金融部局の幹部の話として、次のように解説する。
「2008年のリーマンショック後、中国経済への影響も避けられないと見て、当時の習近平副主席を中心に対応策が検討された。特に多くの中国企業が関与している途上国のインフラ開発の停滞を防ぐ方策が話し合われた。当初は世界銀行やアジア開発銀行、国際通貨基金(IMF)などの既存の国際金融機関に働きかけて、途上国へのインフラ開発資金の融資額を増やそうとしたが、らちがあかなかった。
このため、習氏やそのブレーンがたどり着いた結論は『中国が自ら途上国向けの国際的な金融機関を創設してしまおう』ということだった」
同筋によると、世銀は米国主導で総裁は米国人、ADBは日米両国が主導権を持ち総裁は日本人、IMFも米国主導で総裁は欧州人。しかも、融資の審査が厳格なだけに、アジアなど新興国への多額の資金貸し付けは不可能だ。
このため、習近平はAIIB創設を決め、AIIBの創設を発表する場を慎重に選んでいった。
北京の国際金融筋は「AIIBにせよ、一帯一路(※陸と海のシルクロード)構想にしても、ここ数年の中国の経済成長の落ち込みが背景にある。今年は7%成長の実現すら危ぶまれており、確実に中国経済は悪化している。これに歯止めをかけるために、中国が近隣諸国のインフラ投資に乗り出し、外貨を稼ぐ目的がある」と指摘する。
この言葉通り、過剰在庫の山を築いている鉄鋼やセメント、建材などをインフラプロジェクトに転用して国内在庫を一掃するとともに、数千万といわれる失業者の雇用形成のチャンスも拡大するというメリットがある。要は「すべての道は北京に通じる」という中華思想の産物といってもよいのだ。