陸橋の下に放置された大量の野菜。通りすがりの人は皆、目にしたはずだ。特段の反応はなかった。ところが1日半ほど経ってから、だれかが「あれって、ただじゃないの?」と言った。とたんに人々の目の色が変わった。働いていた人も、仕事を放り出して駆けつけた。捨てられていた野菜を、争ってかき集めた。そして、“戦利品”を手に、意気揚々と引き上げた。湖南のインターネットメディア、湖南在線が生々しく伝えた。
湖南省長沙市にある陸橋、東二環路の陸橋下に大量に不法投棄されたのは、中国野菜で萵筍(ウォースン)という。ウォースンはレタスに近い品種の野菜だが、太くて長い茎部分がおいしい。あえ物や炒め物にするとシャクシャクとして、ことのほか美味だ。投棄されたのは14日夜とみられている。
後で分かったことだが、近くの卸売市場に持ちこんだ業者が不法投棄したらしい。ウォースンはこのところ、一時は1キログラム当たり4元(約63円)という高値がついたが、価格高騰を知った各業者が市場に大量に持ちこんだ。供給過剰で価格は1キログラム当たり1元にまで暴落してしまった。そのため、儲けが出ないとして捨てて帰った業者がいたという。投棄されたウォースンは数トンにのぼるという。
しかし、考えてみればおかしな話だ。市場に持ちこんでしまった以上、価格が暴落して「元がとれない」情況になったとしても、売ってしまった方が損失はすくない。これについては「基準以上の残留農薬が検出されて、市場から扱いを拒否されたウォースンを捨てた」との説もある。ただし、市場側は「残留農薬の検査は行っていない。したがって、扱いを拒否した野菜はない」と否定した。
大量に捨てられたウォースンに対して「あれって、ただじゃないの?」との声が出たのは、投棄から1日半ほど経過した16日朝という。とたんに「タダだ! 早くもらわなきゃ」という声がこだました。人々が殺到した。よい知らせを独り占めしていたのでは、人情にもとる。「タダ」と知った人は携帯電話などで友人知人親戚に連絡した。短時間のうちに驚くほどの数の人が「四方八方からつめかけた」という。
ピークは午前10時ごろまで。赤いミニスカート・黒ストッキング・ハイヒールという“しゃれた格好”の若い女性が、スクーターでかけつけた。大慌てでウォースンをかきあつめる。引き上げの際には、スクーターの足を乗せる場所にあらんかぎりのウォースンを積み上げた。両足を開いてスクーターにまたがる。“あられもない姿”になったが、意に介さない。
道路清掃作業員も仕事をそっちのけ。ごみ袋の中身を捨て、衛生問題は後回しにしてウォースンを詰め込めるだけ詰め込んだ。もちろん、付近の商店主も駆けつけた。負けてはいられない。ウォースンが少なくなるにつれ、奪い合いになった。
ウォースンは葉の部分も食べられるが、やはり美味しいのは茎の部分だ。現場には、ウォースンの葉が大量に残った。遅れて到着した人も、手ぶらで帰るわけにはいかない。午後4時ごろになっても、ウォースンの葉をかきわけ、残っている茎を探す人がいた。
残されたウォースンの葉を処分するのに、改めて道路清掃員がかきあつめられた。清掃車を多数動員して、やっとウォースンの葉を運んで行ったという。元通りになった陸橋周辺に、おだやかな春の夕闇が迫った。