名古屋場所で35度目の優勝を果たした白鵬だが、対逸ノ城戦での“蛮行”が大きな問題にならなかった理由とは。
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「勝負が決まった後ですから、あまりに意味不明な行為。僕らは虚を突かれ、エッ?という感じになりました」(ベテラン相撲記者)
大相撲名古屋場所9日目の白鵬対逸ノ城戦でのことだ。白鵬は左張り差しから右四つに組んで逸ノ城を危なげなく寄り切ったが、問題は、そのあと。土俵を割って力が抜けた逸ノ城のあごを、白鵬はいきなり右手をノド輪のような形にして下から突き上げていったん止め、その形のまま相手の顔を見もしないで右腕を伸ばし、突き飛ばしたのだ。
「あれはノド輪というより掌底。角度的に入っていたら逸ノ城はひざから落ちていたと思えるほど危険な行為です」(同前)
その日の審判長だった藤島親方(元大関・武双山)も「見苦しい」とコメントし、当の白鵬は「気を付けます」としたが、本当に反省しているかどうか。
「白鵬は『先場所のアレを返した……熱いものが出た』と言い、先場所初日に逸ノ城に土をつけられたことを意識したようですが」(スポーツ紙デスク)
これほどの蛮行でも、大きな問題にならなかった。この取組直後の結びの一番で栃煌山が鶴竜に土をつけ、この時点で日本人力士の久々の優勝が期待される展開となり「流れが変わった」と前出ベテラン記者は解説する。「あの日、報道陣に囲まれた藤島親方の最初の言葉は『栃煌山は良かった』。だけど記者たちから、アレは見苦しいんじゃないですか?と聞かれ、『見苦しいよ』となった。相撲人気が回復して満員御礼が続くいい流れ。水を差す悪い話題は口にしたくない、という意識があると思います」
その翌日、白鵬の師匠の宮城野親方(元幕内・竹葉山)が審判部を訪れて謝罪し、親方を通じて白鵬は厳重注意に。一件落着となった。
「それにしても白鵬は、すっかりヒール(悪役)ですね」(別の相撲記者)
確かに白鵬の、横綱にあるまじき行為は枚挙にいとまがない。去年の名古屋場所4日目の豊真将戦では相手を寄り切ったあと、右腕で土俵下に突き飛ばした。同九州場所でも照ノ富士に寄り切って勝ったあと、土俵下で背中を向けていた相手を押した。今年初場所で33度目の優勝を飾ったときも、千秋楽翌日の一夜明け会見で審判部批判を繰り広げ、大騒動となった。
「モンゴルの先輩、朝青龍の問題児ぶりと対比され、白鵬はまともだと思われていましたが、もはや朝青龍と変わりません。招待した小学生たちと写真を撮ったりしてファンサービスしてますが、かえってあざとく見えて仕方ない」(同前)。品格という言葉が懐かしい。
※週刊朝日 2015年8月7日号