こんなところにも”病巣”は見え隠れする。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
中国天津市の港・濱海新区で起きた爆発事故、いわゆる”8.12″事故をめぐる問題はいまだ中国社会にくすぶり続けている。
予測されたことだが、事故原因についてもいまだ当局から正式な言及はないままだ。すでに事故から2週間以上が過ぎ、そろそろ利害及んだ関係者以外の人々の関心が遠ざかり始めているようにも見受けられる。
だが、そうした空気のなか再び人々を事故にひきつけるユニークな話題が中国社会に持ち上がった。舞台となったのはなぜか天津とはまったく関係のない湖南省であった。
現地の記者が語る。
「湖南省公安庁の下に設けられたネット安全保衛技術偵察総隊がウィチャット上で発信した捜査情報で明らかになったことですが、実は爆発事故のあった直後、一人の失業中の青年が『あれは自分の犯行だ』と書き込んだことで、身柄を押さえられていたことが分かったのです。
書き込みには、『天津の爆発は、私の犯した間違いだった。でも、私は後悔していない』と書かれていて、火をつけた動機として、工場の社長が自分を薄給で酷使したことだと記しているのだそうです」
本当なら大ニュースだが、25日に報道された内容を目にした多くの中国人たちは腹を抱えて大笑いしたという。
「何といっても、犯行声明を出した譚という青年は、『燃料の入ったドラム缶の近くにあった固形の揮発性物質に自らライターで火をつけて逃げた』と告白しているのですから……。
当局もまともに相手にしていないことは、当初からネット警察が出てきていて、ウソの情報を故意に流布し社会秩序をかく乱したとして『行政拘留』していることからも明らかでしょう」(同前)
ただ、こんな情報さえまともに受け止めてネット内で拡散させる人々が後を絶たないのが中国のネット事情でもある。
こうしたデマを真に受ける社会の滑稽さはネット社会の一つの断面でもあるが、事故と同時にネットに溢れた噴飯情報に関しては、「日本では『あの事故の裏に江沢民派の陰謀がある』という解説があるということも、一部の知識人の間では、かなりウケていました」(同前)というから、情けない。