誰しも人生で一度は登りたいと思わせるのが世界遺産の霊峰・富士山だろう。しかし、今年の富士登山者は最盛期に比べほぼ半減となった。そんななか、昨年頃からブームとなっているのが、登頂を目指さない「富士下山」だ。
富士山の夏山シーズンは15日に終了した。富士吉田市の調べでは、7~8月の県側からの登山者数は14万7616人と過去10年で最低を記録し、最も多かった’10年の25万9658人から43.1%下がりほぼ半減したという。同市によると、御嶽山や箱根山が噴火したことによる富士山噴火への心配や、世界遺産ブームの落ち着き、今年の天候不順が重なったことが登山者減少の理由として考えられている。
「富士登山」のほとんどは、高木が生育できなくなる森林限界の5合目から出発する。下界の眺めは広大で心地よいが、緑豊かな自然がなく殺伐とした風景が広がっていて、山岳経験の少ない登山者には体力的に厳しい面もあるものだ。
そこで昨今、密かにブームとなっているのが「富士下山」である。登山ビギナーや高齢者でも楽しめると評判で、実際に日帰りツアーも存在する。富士宮口5合目から宝永山火口を経由し、御殿場口へと歩いていくコースのおよそ8割が下山なので、山頂を目指すよりもはるかに体力的にやさしい山歩きができ、登山にはない四季の移ろいや富士山のいろいろな表情を楽しむことができるという。
「富士下山」のコースの一例を見てみよう。富士宮口5合目から宝永山と大砂走りを経由し、須山口1合(水ケ塚公園)に下りてくるコースでは、山頂まで登らなくとも富士山の自然や文化を体感できる。コースには、富士山でも唯一火口の中を歩けるスポットとして有名な宝永火口があり、砂と小石が混ざった砂礫地帯の「大砂走り」の砂はクッション性が高いため、足腰への負担が少なく歩きやすい。5合目の標高がおよそ2,500mなので、10月には紅葉が最高の季節となる。
また「富士下山」以外にも、樹海探検など富士山の楽しみ方へのニーズが多様化しているのが最近の特徴だ。麓にある「道の駅富士吉田」では、8月の来客数が過去最多の26万146人となり、富士五湖ではファミリー向け自然体験教室などへの参加が増えた。観光業者「エコ ビジョン ブレインズ」の樹海探検ツアーには約1,000人が参加し、山頂を目指さず麓で自然を楽しむ観光客が増えているという。相次ぐ火山の噴火で今後の富士登山者の減少が懸念されているが、山を登るだけではない富士山の魅力にこそ、新たな活路を見出せるのかもしれない。