STAP現象について、アメリカの研究者らが存在することを突き止めたとの真偽不明の情報がネット上で流れ、一時騒然とした。この情報については、専門家からも発言が相次いでいる。
研究者らの論文が載ったのは、英科学誌「ネイチャー」の出版社が運営するサイト「サイエンティフィック・リポーツ」だ。
STAP細胞のあるなし巡って、ネット論議に
タイトルは、「損傷誘導による筋肉由来の幹細胞様細胞の特性評価」で、米テキサス医科大学の研究者らが2015年11月27日に論文を投稿した。
この論文の内容が12月10日になってブログで取り上げられ、まだ再現されたことのないSTAP現象の存在を研究者らが突き止めたと紹介された。つまり、元理化学研究所の小保方晴子氏らが提唱したSTAP細胞はあったというのだ。小保方氏らがSTAP論文を発表したのは「ネイチャー」だったこともあり、2ちゃんねるなどでもブログが話題になった。
その後、まとめサイトが次々に取り上げるようになって、ネット上でちょっとした騒ぎに発展した。ネタとして書き込んでいる可能性はあるが、「実はSTAP細胞あると思ってた」「小保方さん、逆転サヨナラ満塁本塁打!」といった声が上がり、中には、過剰なバッシングの結果、アメリカに研究成果を横取りされたという嘆きさえ出た。
ただ、STAP現象については理研でも再現できず、研究不正があったという結論になっている。世界各国の研究者が確かめようとしたものの、現象の再現に成功したという報道はない。このことから、ネット上では、「どうせデマだろう」「小保方に謝れと言ってる人はなんなんだ」と冷ややかにみる向きも多い。
騒ぎになった米国研究者らの論文については、専門家らからも、ブログやツイッターで次々に発言が出ている。
理研や文科省「特にコメントはありません」
近畿大学医学部附属病院の榎木英介講師は、ヤフー・ニュースに投稿した記事で、米国研究者らの論文は、筋肉の細胞が損傷という刺激によって多能性幹細胞になるという内容だと解説した。論文では、これは「iMuSCs細胞」と名付けられている。
STAP細胞は、リンパ球が弱い酸の刺激によって多能性幹細胞になるというものだ。榎木氏は、この点で共通点はあり、STAP現象に見えるかもしれないものの、iMuSCs細胞は、生殖細胞にはならないため、万能細胞ではないと指摘した。また、論文の査読者が1人しかいないことも問題点に挙げられるという。
そして、たとえSTAP現象があったとしても、小保方氏らが研究不正をしていた事実は変わらないと厳しく批判した。
STAP問題を取材してきたライターの粥川準二氏も、医療情報サイト「Medエッジ」で同様な指摘をした。
粥川氏は、米国研究者らの論文は、小保方氏らのとは多能性幹細胞を作る方法がまったく違い、iMuSCs細胞は生殖細胞にはならなかったとして、「小保方氏らが『ネイチャー』論文で成功したと称したこととは異なる」と述べた。そして、「100歩、いや1万歩譲って、テキサス医科大学の研究者らの実験結果は小保方氏らの主張する『STAP現象』の再現に成功したものだとむりやり解釈しても、そのことは、研究不正がなかったということを意味するわけではありません」と言っている。
米国研究者らの論文について、理化学研究所の広報室や文科省のライフサイエンス課では、「特にコメントはありません」とだけ取材に答えた。