NHKの現役アナウンサーが危険ドラッグを所持して逮捕されるという前代未聞の事件が起きた。同局のアナウンス室には家宅捜索も入り、衝撃は広がるばかりだが、NHKでは、このところ、不透明な土地購入計画や子会社の社員による着服が発覚するなど不祥事が相次いでいる。「組織が緩みきっている」(専門家)。日本を代表する公共放送の信頼が大きく揺らいでいる。
耳を疑うニュースだった。危険ドラッグを所持したとして医薬品医療機器法違反の疑いで、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部に逮捕された同局アナウンサー、塚本堅一容疑者(37)。
逮捕容疑は、東京都文京区の自宅マンションで10日、若干量の指定薬物を含む液体(小瓶2本)を所持していた疑い。薬物は性的興奮を高めるという「RUSH(ラッシュ)」とみられ、吸引などの方法で摂取していた可能性がある。
麻薬取締部は10日、塚本容疑者の自宅を家宅捜索し、任意同行した上で逮捕した。同容疑者は「自分で使うものだった」と容疑を認めている。
麻薬取締部は翌11日、勤務先のNHK放送センター(東京)のアナウンス室なども家宅捜索。12日午前、同容疑者を送検した。
NHKなどによると、塚本容疑者は千葉県出身。明大文学部を卒業後、2003年4月に入局。京都、金沢、沖縄の各放送局をへて、昨年2月に東京アナウンス室に異動し、総合テレビの「ニュース シブ5時」でリポーターを担当していた。
公式プロフィルは、すでに同局のホームページから削除されているが、趣味は歌舞伎などの舞台鑑賞、特技はロールケーキなどの洋菓子作り。リフレッシュ法は〈一人夜中にコンビニデザートを食べながら見る宝塚〉と明かしている。
現役アナウンサーが違法薬物で摘発される事態を受け、NHKは11日、「職員が逮捕されたことは誠に遺憾であり、視聴者や関係者に深くおわびします。事実関係を調べた上で、厳正に対処します」とコメントした。
NHKをめぐっては、子会社のNHKアイテック(東京)で昨年12月、本社と千葉事業所のいずれも40代の男性社員2人が工事などを架空発注し、計約2億円を不正に受領していたことが発覚。今年1月にも同社九州支社の50代の男性副部長が業務の架空発注などで計約500万円を着服した疑いが判明した。
NHKの関連会社9社が東京都渋谷区の広大な土地を約350億円で購入しようとし、手続きの不透明さが昨年12月に明るみに出て、計画を断念する騒動も起きている。
立教大学の服部孝章名誉教授(メディア法)は、「籾井(勝人)氏が会長についてから、特に組織が緩んできているように感じる。今回のアナウンサーの逮捕は個人的なこととはいえ、スタッフの人数が多く、上が局員をコントロールできなくなっているのではないか」と話す。
薬物逮捕を受けての報道機関へのコメントは、わずか1枚のファクスだった。
「ファクス1枚で幕引きを図るのはありえない。今後開かれる会長の定例会見などで、どれだけの対応がなされるか。危険ドラッグも問題だが、昨年の着服問題以前にもNHKは金銭の不祥事が繰り返されてきた。それらのお金はもとは、受信料である公金だ」