根津甚八が11年ぶり銀幕に 盟友・石井隆監督「GONIN サーガ」で一作限りの俳優復帰
鬼才・石井隆監督が自らの代表作「GONIN」の20年ぶり続編として手がける「GONIN サーガ」に、俳優業を引退した根津甚八が出演していることがわかった。根津は、石井監督たっての願いで今作限りでの復帰を決意。物語の鍵を握る「5人」の最後のひとりで、前作と同じ氷頭役を務めている。さらに、根津と同じく前作から引き続きのキャストとして、佐藤浩市と鶴見辰吾も出演していることが明らかになった。
1995年に公開された「GONIN」は、バブル経済の崩壊を背景に、社会からつまはじきにされた5人の男たちが暴力団事務所強盗事件を起こし、壮絶な戦いに巻き込まれていく姿を描いた。続編となる今作は、前作で死闘を繰り広げた男たちの息子らに焦点を当てた物語となり、東出昌大が暴力団・五誠会系大越組の若頭だった久松茂(鶴見)の息子・久松勇人役で主演を務めている。
根津は前作で汚職により警察をクビになった元刑事・氷頭を演じ、ラストではビートたけし扮する殺し屋・京谷の銃弾に倒れた。今作ではあれから19年後、銃弾を受けながらも生死の境をさまよい、植物状態で生きていた氷頭が登場する。根津にとっては11年ぶり、50本目の映画出演となる。
黒澤明監督の「影武者」や「乱」、柳町光男監督の「さらば愛しき大地」などで高い評価を受け、日本映画界を代表する存在として数多く作品に出演してきた根津は、01年に複視(物が二重に見える視覚異常)を患う。それでも俳優業を続けていたが、04年の映画「るにん」(奥田瑛二監督)への出演を最後に俳優活動を休止。復帰のためのリハビリとトレーニングを続けていたが、10年に夫人の根津仁香さんが執筆した書籍「根津甚八」の中で、「自分自身が志すような演技者であることが困難になった」と事実上の俳優業の引退を表明していた。
石井監督作には、前作「GONIN」のほか「月下の蘭」「ヌードの夜」など7本に出演。2人はまさに盟友と呼べる間柄であり、そんな石井監督から今回「“氷頭は生きていた”を糸口にした『GONIN』のその後を根津さんとどうしても撮りたかった」という熱いオファーを受けた根津は、「本(脚本)をじっくり読んで、これなら、今の自分に出来るという気持ちがわいてきた。今までの石井監督へ感謝の気持ちもあり、素直な気持ちで、今一度、自分自身を試してみようと思った」と出演を決意した。
そんな根津の思いに応えるように、石井監督も「僕は現場で皆からなんと思われようとも、役者と監督と言う形で向き合わなければ失礼だ、と心に決めて現場に臨んだ」と、撮影現場では厳しく声をあげる場面もあったという。その様子を見ていた主演の東出は、「ご病気で麻痺の残る根津さんに叫ぶ監督の声は、自分の身も引きちぎる思いと共に叫んだ声なのだと瞬間に理解しました」と述懐。それでも根津は、「久しぶりの撮影現場の空気に気持ちが高揚して、自分はこの仕事が心底好きなんだと改めて感じた。自分の為の、セット作りも大変だったと思うのに、無理のないようにと細やかな心遣いをしていただいた。心からの、お礼を言いたい」と述べている。
そして根津と同じく前作に出演した佐藤と鶴見も、それぞれ同じ万代役、久松役での出演が決定。初の映像素材となる特報映像も公開され、その中で病院のベッドに横たわる根津の姿を確認することができる。「GONIN サーガ」は9月26日から公開。