「テレビに出て、取られたおカネを取り戻しましょう!」――。こんな言葉で詐欺被害者を狙い撃ちする新手の詐欺が横行している。犯人たちはテレビ番組の制作会社をかたり、過去に被害に遭った人たちに「安藤優子キャスターが司会で、詐欺の手口を紹介する番組に出演してほしい」とフジテレビの架空の番組への出演を持ちかけて、金銭をだまし取ろうとするヤリ口だ。被害者は「安藤キャスター」と「フジテレビ」という言葉で、つい信用してしまうというから悪質極まりない。
28日放送の「直撃LIVE グッディ!」(フジテレビ系)の冒頭、安藤キャスターは自身の名をかたる詐欺への注意を視聴者に呼びかけた。
実際、7月中旬に香川県の女性(72)が、2回にわたり合計310万円を送金し、だまし取られる実害も出ている。映像制作会社「住友ケーブルコミュニケーション」の社員を名乗る男から、番組出演を依頼する電話が掛かってきたのが発端だった。
周到なことに、被害女性の元には安藤キャスターをエグゼクティブプロデューサーと紹介する同社のニセのパンフレットが事前に届いていた。その上で「番組には安藤優子も出演する」として女性を信用させたという。
なぜ出演依頼から金銭が発生するのか?
国民生活センターは「番組出演を条件に被害回復をうたうのです。(出演者の)IT起業家が被害額を立て替えるなどと言って、代わりにスポンサーの社債を買うよう送金させる手口もある。悪徳業者が口座凍結を恐れて現金を宅配便で送らせるのはよくあるケース」と説明する。
昨年5月には、番組制作会社のディレクターを名乗る男が「宮根誠司キャスターが取材するので一緒に写真を撮れる。その代わり、損害を取り戻すために仲介する人物の関係先の社債を購入してほしい」と詐欺被害者を口車に乗せ、現金170万円をだまし取る事件も発生している。
同センターは「2013年あたりから、この手の被害相談が多数寄せられている。被害者の名簿は悪徳業者の間で出回っていて、看板をかけ替えて、有名人の名前を出す同様の詐欺を繰り返している可能性もある」と指摘する。
フジテレビによると「6月上旬ごろから『そういう(詐欺手口を暴く)番組は本当にあるのか』などの問い合わせが何件か来ていた」という。
「一度だまされた人は何度もだまされる」というのは、詐欺界の常識だ。詐欺研究家の野島茂朗氏は「番組出演詐欺でほかの手口としては、架空の出演オファーをしておいて『実際に詐欺グループにおカネを渡さないとヤラセで損害賠償請求されますよ』『取材で詐欺グループと接触してしまい示談金が必要になった』とだますんです」と明かす。
明らかにウソと分かりそうな話でも、過去にだまされたような人は信じ込んでしまいがちだ。
高齢者には詐欺情報をネット経由で収集できない人もいる上に、加齢によって判断能力も衰えている。
「高齢者は『住友』など財閥を示す言葉に弱いですし、安藤優子などテレビでよく見る顔にも弱いから、疑わないでしょう。高齢者は秘密を厳守する義理堅さが災いして、家族に相談しないのでだまされやすいのです」と野島氏。詐欺グループはすべての人間をだまそうとするのではなく、だまされやすい人だけを狙っているのだ。