韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(63)が身内から食らった“公開説教”が波紋を広げている。妹の朴槿令(パク・クンリョン)氏(61)が、4日に公開されたインターネット動画配信サイト「ニコニコ動画」のインタビューで、反日路線を突き進む姉の政治姿勢を痛烈に批判したのだ。靖国神社参拝への批判を「内政干渉」と言い切るなど、韓国でもその発言内容が物議を醸している槿令氏。約120分にわたり繰り広げた衝撃中身は-。
「(最後に会った時期は)よく覚えていない。毎日テレビで姿は見ている。姉は公人なので、今は個人的に会うことは望んでいない」
青いジャケットに濃紺のズボンを身につけて登場した槿令氏は、現在の朴氏との関係を問われてこう切り出した。
朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の次女、三女として生まれた2人。ほほえみを絶やさず終始穏やかな口ぶりの槿令氏は、強硬な反日姿勢を貫き神経質な一面をのぞかせる姉とは対照的な印象を受ける。
「姉とは血液型も違う。姉は私と違って模範的な人生を送ってきた。テストの時には主要科目の国語、英語、数学だけでなく体育の教科でさえも熱心に勉強していた」
さらに、槿令氏は「(姉は)勉強はよくできたが、本を読めば周りのことが目に入らなくなった」。きょうだいをないがしろにしがちだった一面を母親から注意され、寛容の徳の必要性を説かれていたという。
日韓国交正常化を果たした父の影響もあってか、槿令氏の「親日」ぶりは際立つ。インタビュアーに日本の印象を聞かれ、「日本には韓国にはない長所がある。例えば日常生活のマナーや文化。しつけという言葉がある。あいさつを欠かさず礼儀正しい。相手を配慮する気持ちもある。それが生活の中に溶け込んでいる」。
この発言に続けて「韓国も『東方礼儀の国』と周辺国から言われていたが、今はそういう言葉は当てはまらない。だから韓国人にはそういうことを日本から学んでほしい」と韓国社会に苦言を呈した。
話題は朴槿恵政権の外交姿勢にも及んだ。
日本人の靖国参拝について、「日本の神社参拝は子孫が先祖を訪ねていくものであり、100年前の先祖が悪いことをしたから子孫が参拝をしないというのは人の道にもとる」とし、「韓国がそれを度々批判するのは内政干渉」と主張。「安倍(晋三)首相が靖国神社を参拝したからといって『これから戦争を起こしたい』という気持ちがあるとは思えない」とし、慰安婦問題も「元慰安婦をはじめ苦痛を受けた方々に対しては、韓国国民が国内で面倒を見なければならない」と言及した。
韓国では、元徴用工らが、戦時中に徴用した企業の流れをくむ日本企業を相手に賠償請求訴訟を乱発しているが、それを意識した発言もあった。
韓国の鉄鋼最大手「ポスコ」の前身である浦項製鉄所設立の経緯に触れ、「当時日本から無償、有償の援助を受けて浦項製鉄所が産業の原動力となった」と指摘。元徴用工らから訴えられている新日鉄(現・新日鉄住金)や三菱重工などの名を挙げ、韓国の経済発展に日本企業の協力が「決定的な要因となった」と強調した。
インタビューの中で、日韓関係の改善の必要性に繰り返し触れた槿令氏。日本との関係を重要視した父を引き合いに出し、「『親しき仲にも礼儀あり』との言葉がある。父は植民地時代に生まれて国交正常化を果たした。日本の植民地支配を経験した人が未来志向を抱いた。その経験もない私たちが親たちの考えを継承していかなければいけない」。
歴史問題などで繰り返し日本政府に謝罪を求める朴槿恵政権を「過去のことを何度も蒸し返して責めるのは、浮気した夫とヨリを戻した妻が、その後も夫の悪い噂を流すのと同じ」と牽制した。
動画が配信されている最中には、ニコ動のコメント欄に書き込みが殺到。異例の政権批判に「すごいこと言ったな」「画期的な発言だ」などと反響が相次ぎ、「この人、国に帰って大丈夫か?」との声も出た。
インタビューは事前に収録されたもので、主な内容は先月30日に韓国で伝わっており、朝鮮日報(日本語電子版)が1日、保守系の市民団体が「反民族的で恥ずかしい発言」と批判したと伝えるなど、多くの現地メディアが槿令氏の発言に反発している。
ただ、韓国の世論調査会社リアルメーターの調査では、30日の朴槿恵大統領の支持率は前日29日から2・3ポイント下落。週間最低値の34・1%を記録するなど政権にも打撃を与えている。
現地事情に詳しいノンフィクションライターの高月靖氏は「槿令氏と朴氏(=槿恵氏)は、1990年代に財団の運営をめぐってトラブルとなって以降、関係が疎遠になっていた。槿令氏が2008年に再婚したときも、朴氏が結婚式に顔を出すことはなかった。発言の背景に、そうした姉妹間の複雑な関係があると指摘する向きもある。槿令氏自身も韓国で詐欺容疑で起訴されるなど、お騒がせな人物として知られている。朴政権も、今回の彼女の発言が日本の世論に及ぼす影響を慎重に見極めている段階だ」と話している。