フランスで1992年に開業した「ディズニーランドパリ」が、来場者の居住地によって異なる入場料を設定して、英国人やドイツ人に対して不当に割高な料金を徴収しているとして、欧州連合(EU)が調査に乗り出したことが分かった。複数の来場者から苦情があったという。EUでは季節要因や需要変動といった特別な理由がない限り、域内各国の企業に対して、居住国や国籍を理由に価格差をつけることを禁じており、今回の事例はそれに違反すると判断されたとみられる。
ドイツ人は1.8倍超にも
28日付英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)や29日付ロイター通信などによると、ディズニーランドパリがプレミアムパッケージをフランス人の来園者には1346ユーロ(約18万3000円)で販売しているのに対し、英国人には1870ユーロ(約25万4400円)、ドイツ人客には2447ユーロ(約33万2900円)で販売。実にドイツ人はフランス人の1.8倍以上、高い入場料だ。
また、フランス人だけは大家族割引や特別レート、年間パッケージ、料金の月賦払いなどの恩恵を受けていた。また、ベルギー人もフランス人に準ずる割安料金になっているという。ディズニーランドパリには昨年、1420万人が来園。全体の約半数はフランス人、英国人が16%、ドイツ人が3%だったという。
そのため、海外の消費者からEUに対して、こうした“差別扱い”の解消を求める声や、フランス人やベルギー人が利用できる割引サービスを提供しないのは違法行為だとの苦情が寄せられていた。
EUの欧州委員会の広報担当者はロイター通信に「消費者や消費者団体から多くの苦情が寄せられており、他のテーマパークなどについても調査したが、ディズニーランドパリのような大きな価格差のあるところは見つけられなかった」と説明。
エルズビエタ・ビエンコウスカ委員もFTに「真相を究明する時だ。(ディズニー側の)答えと説明に興味がある。このような慣行が客観的に正当化される理由を見つけるのは困難だ」と述べるなど、EU側はディズニー側の価格差の設定の仕方の異常性を強調した。
これを受け、欧州消費者機構(BEUC)の広報担当者はFTに、EUの姿勢を歓迎するとともに「不当な差別の内容を明白にすべきだ」と訴えた。
特定販促策と反論
これに対してディズニー側は「販売促進を目的とした割引を除く一般的なリゾート・パッケージをディズニーランドパリから直接購入する場合、為替レートによる差を別にすれば、域内全ての国で同一料金だ」と反論。そのうえで、「各国から来園客を引きつけるため、各国向けの特定販促策を行っており、その中には割引も含まれる。各国の学校の休暇期間や予約パターンなども考慮している」などと説明、正当性を訴えた。
EU側がこうした域内の“差別的価格差”に目を光らせる真の目的は、電子商取引などにみられるIPアドレスや決済カードで特定地域の消費者を一定のサービスから締め出す「ジオブロッキング(地域制限)」の根絶だ。
米文化を狙い撃ち?
実際、EUは23日に英国のスカイTVと、ディズニーを含む米の映画会社大手6社が、英国とアイルランド以外のEU諸国に対し、スカイTVを視聴できなくしている」として独占禁止法違反で提訴している。
29日付英紙ガーディアン(電子版)は、今回の調査が「この提訴のわずか数日後に行われた」と指摘、EUがディズニーを狙い撃ちにしている可能性も示(し)唆(さ)した。
もともと米国文化に否定的で、ディズニーにも冷淡な欧州だが、近年はネット通販アマゾンドットコムやスマートフォンを使った配車サービス「ウーバー」な米IT業界の大攻勢に見舞われて反感が高まっていることが、今回の調査につながったともいえそうだ。