優勝した東海大相模の小笠原、早実の清宮、関東第一のオコエというスターが最後まで勝ち残ったことで、100年目の夏の甲子園は大きく盛り上がったが、その裏で取材が過熱する余り、いくつかの問題が起きた。そのひとつが、TBSの取材禁止事件。混乱を避けるため取材禁止エリアとされていた甲子園球場の場外で、取材証を持たないクルーが、長蛇の列を作っていたファンに対してカメラを回していたため、大会本部役員が注意すると、「個人撮影です」と嘘の説明をしてさらに取材を続けたため、大会本部はTBSのすべての取材証を取り上げ、来年の大会の取材証も発行しない厳しい処置が決められた。
一部では、「選手に直接の迷惑をかけたものでも、混乱を招いたものでもなかった取材に、そこまで厳しい処置を下す必要があるのか」「来年の取材は関係ないのではないか」という声もあったが、実は、今大会のメディアの暴走は、これだけではなかった。
甲子園球場の廊下に置かれていた大会本部から報道陣への連絡用のホワイトボードには、取材違反に関する報告文書が、6、7枚、貼り出されていた。TBSの取材違反が表沙汰になったのもこの貼紙だが、中にはこんな事件もあった。
長崎文化放送の社員が取材証を使って入場、しかも、アルプススタンドでビールを飲んでいたというもの。その人物は取材記者でなく社員だったが、満員でチケットが買えず入れなかったため、取材証を同社の記者から借りて入場、お客さんからの通報があったという。
またRKB毎日放送のラジオレポーターも、宿舎からの移動期間の取材が禁止されているにもかかわらず、九州国際大付属のチームバスに乗り込んで取材したため、取材証を取り上げられた。
大会本部は、選手の練習環境を守り、大会運営の混乱を避けるため、いくつかの取材ルールを決めている。取材証の貸与禁止はもちろん、チームの宿舎までの移動取材や、球場周辺取材の禁止も、その規定の一部。またアルプススタンドの応援団の交代時の取材禁止、試合後の選手へのインタビュー時の写真撮影も禁止されるなど、主に混乱、トラブルに発展してしまうことを避けるため取材上のルールが厳しく定められている。
現場取材に関しては、関西運動記者クラブ、関西写真協会の幹事が交替で出てきて、取材ルールが厳守されているかを監視している。一方、試合前には、必ず両チームともに室内練習場にて取材時間が設けられていて、時間内での取材はチームの監督、部長、コーチ、選手、マネージャーら関係者の誰を取材しようが自由で、報道そのものに制限をかけられているわけではない。逆に混乱がおきないように配慮されている。
高校野球人気の上昇に伴い報道が、どんどんエスカレートすると、他社の知らないネタやエピソードを手に入れようと、無茶な取材に走るケースが少なくない、そして一番の問題は、普段、スポーツの現場での取材経験の少ない記者やスタッフが、多数、現場に押しかけること。テレビのワイドショー班や、支局から回される“1年生記者”らが、甲子園取材のルールをよく把握しないまま取材を進め、時に“暴走”。チームの練習や大会運営に混乱を与えてしまう。
これらは、取材証を発行された社の管理不足。事件取材でもない現場での「アスリートファースト」というスポーツ取材の原則を徹底して教育しておく必要があるだろう。だが、テレビは担当部署の違い、地方支局は人手不足で、そういう横の連絡、教育が行き届いていないのが実態だ。
そう考えると、これらの暴走を防ぐには、取材禁止処置という抑止力を使うのもやむなしかもしれないが、
大会本部が取材禁止という“黄門様の印籠”をふりかざす手法について批判的な声がないわけではない。
違反行為を行ったメディアの取材証の取り上げは、オリンピックなどの国際大会でも行われているが、取材証の取り上げ報告の文書を大会期間中、ずっと貼り出している行為についても「見せしめのようで気持ち悪い」という意見もあった。
しかも、取材許可証は、基本的に東西の運動記者クラブ所属のメディアか、雑誌協会所属の出版社にしか出されておらず、その枚数も制限されている。インターネットメディアにも取材証を発行しないが、その大会本部の取材許可の選別理由もよくわからず、今なお、開かれていない高野連の権威主義的な匂いもプンプンする。
一番大事なのは、違反があった後の取材禁止処置ではなく、選手の試合に集中できる環境作りと、混乱やトラブルを事前に防ぐこと。例えば、取材規則についてのブリーフィングを事前に受けることを取材証発行の条件にするとか、取材証を顔写真付きの取材証に切り替え取材証の貸与をできないような工夫をすることも大会本部には必要ではないだろうか。