誘拐、暴力、人身売買、レイプ。イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic State、IS)」が運営しているイラクの国際市場では、キリスト教徒や少数派ヤジディー教徒の女性たちが性奴隷として売られている──ISから逃れてきた10代の女性が1日、AFPに語った。
ヤジディー教徒のジナンさん(18)がISの戦闘員たちに捕まり、人質となったのは2014年の初め。3か月後に脱走するまでの苦難をつづった著書「Daesh's Slave(ダーイシュの奴隷)」が今月4日に出版されるにあたり、仏パリ(Paris)を訪れた。「ダーイシュ」とはISのアラビア語での略語だ。ジナンさんはこの著書をフランスのジャーナリスト、ティエリ・オベルレ(Thierry Oberle)氏の協力を得て執筆した。
ISがイラク北部のヤジディー教徒が暮らす土地を包囲する中で捕らわれの身となったジナンさんは何度か移動させられた末に2人の男に買われた。ジナンさんを買った男の一人は元警官、もう一人はイマームと呼ばれるイスラム教の指導者だった。ジナンさんはAFPに対し、自分や他の拘束されたヤジディー教徒たちが1軒の家に閉じ込められていた様子を語った。「拷問されました。私たちを強制的に改宗させようとしたんです。拒めば殴られ、灼熱(しゃくねつ)の中、野外で鎖につながれ、死んだネズミが入った水を無理やり飲まされました。電気を使って拷問すると脅されたこともありました」
「あの男たちは人間じゃない。彼らの頭の中には死、つまり殺すことしかない。常にドラッグを使っていて、誰に対しても復讐(ふくしゅう)しようとする。いつの日かISが全世界を支配すると言っていました」
著書の中では、イラク北部の都市モスル(Mosul)での体験も描かれている。「大きな円柱が立ち並ぶ巨大な客間に連れて行かれた……そこには何十人もの女性が集められていた」「大声で笑いながら私たちを見て回る戦闘員たちに尻をつねられた」。一人の男が文句を言っているのが聞こえた。「あいつは胸がでかい。けど、俺が欲しいのは目が青くて肌が白いヤジディーだ。奴らが一番だろう。金は払うぜ」
■美しい女性は「取り置き」
この「奴隷市」でジナンさんが見かけた人には、イラク人、シリア人、さらに国籍は分からなかったが欧米人もいたという。容姿が美しい女性は高官や湾岸諸国からの裕福な顧客のために「取り置き」された。ジナンさんは売り飛ばされると、他の女性たちと一緒に1軒の家に閉じ込められ、男たちがやって来ては立ち去る日々を過ごした。
戦闘員たちが女性を買いにやって来るロビーでは商人たちが、奴隷の所有者と「家畜」の様子を調べる首長たちの間を仲介していた。ある業者はこう言った。「このブルネット(こげ茶色の髪)の娘、あんたのベレッタ(Beretta)の拳銃と交換するよ。現金なら150ドル(約1万8000円)。イラク・ディナールでもいいぞ」
ジナンさんの2人の「所有者」たちは彼女がアラビア語を話せないと思い、ある夜、ジナンさんの前でまったく構うことなく話をしていた。その会話から、奴隷取引がビジネス同然に行われていることが分かった。ジナンさんの「所有者」の片方「アブ・オマル(Abou Omar)」という男が「1人の男が買える女は3人までだ。シリア、トルコ、あとは湾岸のある国から来た男は別だが」と言うと、もう片方の「アブ・アナス(Abou Anas)」という男が「商売にはいいことだ」と答えた。「サウジのバイヤーは、ISの構成員は持っていない輸送費や食費を持っているからな。彼は利益を出せるように割り当て数が多くなっているんだ」「いい取引だ。ISはムジャヒディン(戦闘員)を養うための利益を増やせるし、外国の同胞たちは満足するんだからな」
盗んだ鍵の束を使い辛うじて脱出して夫の元へ戻り、今はイラクのクルド人自治区にあるヤジディー教徒の難民キャンプで暮らしているジナンさんは「故郷に帰れば私たちはまた虐殺されるでしょう。唯一の解決策は、国際的な保護の下、私たち(ヤジディー教徒)自身の地域を持つことしかありません」とAFPに語った。