焼き肉店が多い街ランキング
第1位 長野県飯田市
第2位 北海道北見市
第3位 三重県松阪市
<店舗数:iタウンページ / 平成25年総務省 住民基本台帳に基づく人口、人口動態および世帯数>
※人口1万人あたり
長野県の南部に位置する飯田市は、「信州の小京都」と呼ばれる自然豊かな町。人口の多い場所でもなく、肉の特産地のイメージもない。そんな街に焼き肉店が多いのは、いったいなんで? 取材班は、実態を確かめるべく飯田市に向かった。
まずは飯田市の中心部、JR東海・飯田線の「飯田駅」へ到着。駅を降りて歩いてみると、確かに焼き肉店が目立つ。駅から800mほど歩く間に、なんと8軒もの焼き肉店を発見した。
詳しく調べてみると、飯田駅の半径1kmには15軒もの焼き肉店がひしめき合っていることがわかった。なんとその数はコンビニよりも多い。「焼き肉店が多い街ナンバーワン」の称号は伊達じゃない。ただ、全国の平均的な街からすると、ちょっと異常な数といってもいいかもしれない。
飯田市民の「焼き肉愛」
それにしても、こんなに焼き肉店が多いとお客さんの取り合いにならないのだろうか。平日の夕方、複数店を回ってみたがどこも満席で大盛況。小さな子供たちから、ご年配の方まで客層は老若男女幅広い。
■外食だけじゃない、「焼き肉愛」
飯田市民の「焼き肉愛」は、外食店だけではない。実は精肉店の数も全国の市町村別で1位という数字がある。とある精肉店を訪ねてみると、店員さんが配達へ。同行してみると、到着したのは女子大。その構内にいる6人の女子大生に届けたのは、ガスボンベや鉄板など焼き肉ができる道具一式だった。飯田市内のたいていの精肉屋さんは、こうしたお肉と一緒に焼き肉ができる道具一式を配達してくれるサービスがあるという。
一般家庭にも「焼き肉愛」のエピソードがある。オリジナルの焼き肉タレをつくっているケースがあるという。ある家庭にお邪魔してみたところ、
醤油、ニンニク、タマネギをベースに、豆板醤をピリリときかせた『大人のタレ』をつくっていた。こうした家庭のお庭には、焼き肉専用のカセットコンロと鉄板がたいてい常備されている。
飯田市役所を訪ねてみた。担当者に話を聞いてみると、「飯田市民が全国でもトップクラスの焼き肉好きだということは認識しています」という答えが返ってきた。
自身も焼き肉が大好きだという飯田市職員に、お薦めの焼き肉店を紹介してもらうことにした。案内されたのは何とおすし屋さん。ところが、このおすし屋さんは、裏メニューとして焼き肉を扱っている。
肉そのものが好き!
どこへ行っても焼き肉、焼き肉。なぜ、そこまで飯田市民は焼き肉が好きなのだろうか。飯田市職員が言う。「飯田市民は焼き肉だけでなく肉そのものが好きなんです」。飯田市では、クマやキジ、ウサギ、ヤギの肉まで販売するお店もある。狩猟で取れた山の獣肉を使った「ジビエ」という料理もある。
そんな文化が根付いたのには理由がある。昔、飯田の人たちは山で生活し、山の産物で米や塩を買って暮らしてきた。飯田市は、面積のおよそ84%が山間部。特に山深い地域は、昔は交通網が発達しておらず、他の町へとつながるルートも乏しいうえ、農作物が育ちにくいという環境にあった。その中で、唯一豊富にあった資源が山肉。住民を支える貴重なタンパク源でもあったのだ。
■「ジンギスカン愛」もすごい
飯田駅前のスーパーをのぞいてみた。ごくごく普通のスーパーながら、精肉コーナーには、「ししジンギスカン」「しかジンギスカン」「とりジンギスカン」など、ジンギスカンというキーワードがズラリと並ぶ。飯田市民は『焼き肉と言えばジンギスカン』というほど、ジンギスカンをよく食べる。
ただ、ちょっと待ってほしい。もともとは羊肉を焼いて食べるジンギスカンといえば北海道ではないのだろうか。調べてみると、ジンギスカンが広がったきっかけは、「満州の開拓」にあるようだという話が出てきた。
満州開拓。時は1932年。数多くの日本人が満州へ渡った。満州で食べられていた羊肉料理に触れた日本人は、未知なるおいしさに感動した。満州にわたった日本人の出身地を見ると県別では、長野県が最も多く、中でも飯田市周辺のエリアはダントツに多かった。そこでジンギスカンに触れた日本人たちが飯田市に帰り、広まったのでは、という説がある。
それまで飯田では肉を「煮て食べる」文化しかなかったが、このジンギスカンが広まったことをきっかけにして、肉を焼いて食べる文化が定着したそうだ。
これらは一説であり飯田で焼き肉が盛んになった本当の理由はほかにもあるかもしれない。ただ、焼き肉店や精肉店の数が日本一だという動かしがたい事実を説明するのには十分な材料だ。