家族のため、日本のため、海外で単身頑張っているお父さんに、子どもたちだけで会いに行くひと夏の冒険…テレビ東京で2011年から不定期放送される『世界で働くお父さん』シリーズは毎回、「泣ける」とネット上で話題になっている。昨今、ヤラセや過剰演出が問題視される中、同番組が“泣ける”秘密は何なのか。プロデューサーの三沢大介氏、ディレクターの園畑将基氏に話を聞いた。
【番組カット】今回はロシア、シンガポール、ロシアへ…子どもたちの冒険を追う
――海外系ドキュメンタリー番組は各局でも数多く放送されていますが、子どもを主人公にその成長や家族愛を楽しめるのはこの番組ならでは。どのような狙いをもって企画されたのでしょうか。
園畑「ちょうど、自分の父親が定年を迎えたこともあり、父親をテーマにすれば多くの人が共感できる番組が作れるのではないか、と考えました。堺雅人さんの映画『南極料理人』(09年)を観て、“単身赴任”のお父さんとその家族の物語を見たいと思いました。また、90年代に放送されていた清水建設のCM『昼間のパパ』(歌:忌野清志郎)も印象に残っていました。夏は子どもたちが冒険をするのにふさわしい季節。そんなところから、夏休みを利用して子どもたちが海外で単身赴任して働くお父さんに会いに行く番組の骨子ができ上がっていきました」
――主人公は中学生以下の子どもたち。一人の時もあれば兄弟姉妹で参加する場合もあります。一般募集もしていますが選考のポイントは?
三沢「まずお父さんのことが本当に好きかどうか。特に小さい子は離れて暮らしていると、なかなかお父さんっ子になりきれない子もいる。撮影に入る前に何回も子どもたちに会って確認します。次に、知らない大人に囲まれた環境でも大丈夫かどうか。そして、“お母さん”を見ます。お母さんがお父さんの分まで愛情を持って育てているか。最後は、テレビを観ているおじいちゃん、おばあちゃんが『こういう孫がいてくれたらいいな』と感じてくれるような子がいいですね」
――海外に子どもを連れていく撮影はトラブル対策に気を遣うところだと思いますが、どのような取り組みをしていますか?
園畑「お子さんから目を離さずにケアする見守り専門のスタッフをつけています。大事なお子さんを預かっているので万全の体制を整え、安全面を最優先させています」
三沢「子どもたちの精神状態にも気を配っています。無理強いだけはしないように、もし子どもがギブアップしたら、番組としてもあきらめる覚悟でスタートさせました」
――現地の食べ物を食べられなかったり、疲れて黙りこんでしまったり。子どもたちのありのままの表情や行動も好感を持てます。
園畑「お子さんをお持ちの方はよくわかると思いますが、子どもに無理やり何かさせても、それが表情や態度に表れてしまう。子どもたちが気の向くまま行動できるようにしています」
三沢「父さんが近づいてくると自然と子どもたちが早足になったり、逆に足がすくんでしまったり、それまでけんかしていた兄弟が急に仲良くなって、お兄ちゃんが弟の手を引いて行ったり、そういう何気ない変化を見逃さないようにしています」
――番組制作の中で大切にしている部分はなんでしょうか?
園畑「ドキュメンタリーでありながら紀行ものとしても観られるように、文化の違いも紹介しています。子どもの目線でその国を見ることが大切なので、現地の食べものが口に合わなかった時の素直な反応も魅力となります。大人にない感覚を大切にしています」
三沢「当初から番組自体がお父さんが勤める会社を巻き込んだ壮大なドッキリなので、それ以上の演出は一切辞めようと決めていました。番組内でのナレーションも少なめにしています。お父さんと子どもたちからは自然と台本に書けない動きや言葉、表情が出てくるので、そのありのままを観ていただきたいと思っています」
――昨今、ヤラセや演出を疑わず素直に涙が流せる番組は実はとても少ないのではと思います。
三沢「制作している僕らも、子どもって、家族っていいなと素直に憧れます。子どもの一生懸命さと嘘偽りなくお父さんも子どもに会えてうれしいという気持さえお伝えできればいいというシンプルなところに落ち着くので、視聴者の方もピュアな気持ちで観ていただけるのではないかと思います」
■『世界で働くお父さん』
2011年より不定期で放送されているドキュメンタリー番組。今回は3組の子どもたちが登場し、それぞれロシア、ラオス、シンガポールで働くお父さんを内緒で現地訪問する。MCはTake2の東貴博、アシスタントMCを広瀬アリスが務め、ナレーションはキャイ~ンの天野ひろゆき、原田知世が担当。20日午後7時54分から放送される。