中国の習近平国家主席は、英国訪問で“札束外交”を展開した。キャメロン英首相は、総額400億ポンド(約7兆4000億円)の契約締結に胸を張ったが、習氏が、女王陛下主催の晩餐(ばんさん)会で語った発言を「復讐(Revenge)だ」と受け止めた人物がいる。米ニューヨーク・タイムズや、英フィナンシャル・タイムズの東京支局長を歴任した、英国人ジャーナリスト、ヘンリー・S・ストークス氏が激白した。
習氏は、晩餐会で「中国の茶は英国人の生活に雅趣を添え、英国人が丹精を凝らして英国式の紅茶とした」とスピーチした。私はこのシーンをテレビで見て、「これは復讐だ」と直感した。
英国は19世紀、綿製品をインドに輸出し、インドのアヘンを中国に売り付け、中国(=清)の茶を英国に輸入する「三角貿易」で莫大な利益を得ていた。中国はアヘンの蔓延で苦しみ、1840年6月にアヘン戦争が勃発した。英国はこれに圧勝し、香港を割譲させ、上海など5港を開港させた。以降、中国は半植民地化の道をたどった。
習氏がスピーチに「紅茶」という言葉を入れたのは、わが母国に対する脅迫のようなものだ。大英帝国の「負の遺産」を女王陛下の前で持ち出して、「新中国」と称する中華帝国の皇帝を演じて、英国への復讐開始を淡々と述べたといえる。
「中国は大英帝国に侵略された。今度は、中華帝国が世界に台頭する番だ」というのが、本音だろう。
キャメロン氏が、こうした「悪意」を認識したとは思えない。安全保障に直結する原子力発電所の建設に、共産党独裁国家の企業を参加させることに合意したのだから。人民元建て国債の発行で、一時的に金融街シティーが潤ったとしても、英国の危機は深まったといえる。
ただ、今回の習氏訪英で心強かったことがある。
英国メディアの多くが、経済最優先で中国にすり寄る自国政府に対して、「カネ、カネ、カネだ。モラルはない」「人権問題で極めて憂慮すべき中国と急速に距離を縮めていいのか」「米国の同盟国が、中国の特別な友人になれるのか」などと、大々的な批判を展開したことだ。
どうか、女王陛下にも、英国民にも、目を開いて現実を直視してほしい。「中華帝国」の世界支配を許してはならない。