靖国神社で爆発音がした事件で、すでに出国した韓国人の男の関与が浮上した。容疑が固まれば日韓犯罪人引き渡し条約に基づく身柄の引き渡しの要請など、国境を超えた捜査が始まる。ただ、韓国司法当局が容疑者引き渡しの例外となる「政治犯」と認定すれば、日本側に打つ手はない。捜査には日韓関係も影響するとみられ、行方は予断を許さない状況だ。
「捜査共助要請も含め、日本は法と証拠に基づいて適正に捜査を進めていく」。菅義偉官房長官は3日の記者会見で、韓国側に情報提供や身柄の引き渡しを求める考えを示した。
専門家によると、日本と韓国は双方の国内にいる犯罪者を引き渡す条約を締結している。ただ、条約が想定するのは殺人などの重罪で、容疑が靖国神社の敷地内に立ち入った「建造物侵入」など比較的軽い罪にとどまる場合は、引き渡しの要求が難しくなる。警視庁が捜査を重ね、爆発物の使用などを処罰する「爆発物取締罰則違反」などの容疑で逮捕状が取得できるかが、引き渡し要求の前提条件となりそうだ。
また、条約は「自国で裁くことを条件に自国民の引き渡しを拒める」とも定めており、韓国内で代理処罰に付される可能性がある。
もう一つの焦点は、今回の事件が「政治犯罪」に当たるかどうかだ。政治犯罪となれば条約上、無条件で引き渡しを拒否でき、男は罪に問われない。
動機解明などのため捜査員を韓国に派遣する選択肢もあり得るが、韓国側の協力が得られるか不透明だ。専門家は「靖国神社が関わっている以上、両国間の政治的判断や駆け引きが加わるのは避けられない」と指摘。捜査関係者は「今回の捜査のハードルは極めて高い。時間がかかる捜査になりそうだ」としている。