スイス・チューリッヒのホテルでこのほど、宇宙ステーションの内部を模した客室が公開された。宇宙に行くのをいつも夢見ながら、飛行士になる厳しい訓練には向いてないと感じている人も、地球に居ながらにして宇宙旅行の幻想を味わえるようになりそうだ。
この「宇宙スイート」は、ホテルチェーンを展開するカメハグランド社の依頼で作られたもの。宙に浮いているように見せかけた「無重力」ベッドや、宇宙空間を望むかのような眺めを映し出すスチームバスを備えている。
リドリー・スコット監督の新作映画「オデッセイ」(原題「The Martian(火星の人)」)が米国で先ごろ公開された中、宇宙空間での孤独を味わいたくなった人には絶好の隠れ家になるかもしれない。
客室をデザインしたのはドイツ人アーティストのミヒャエル・ナジャル氏。米ヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船で民間宇宙旅行に出かけるため、この3年間、訓練を重ねてきた。これが作品の着想元ともなっている。
もっとも、単にくつろぎたいだけの人は避けた方が良さそうだ。同氏は「心地よい寝室を作り出す意図は全くない。むしろ、宇宙ステーションに住んでいるとホテルの宿泊客に感じさせるような、没入型の環境を生み出すのが狙いだ」と述べる。
ナジャル氏は部屋のデザインにあたり、想像力を存分に駆使する自由を与えられた。唯一の注意点は、ベッドとトイレを設置するようにということ。
部屋には、地球周回軌道上の宇宙ゴミを視覚化した2画面のビデオ作品、ロケットエンジンから着想を得た照明、宇宙飛行士が装着するグローブの形をした棚のほか、宇宙旅行に関連する本などを収蔵した図書室を設置。機械生成された女性の声が宿泊客を迎えるという趣向もある。ジョン・カーペンター監督のSF映画「ダーク・スター」に触発されたものだ。
国際宇宙ステーション(ISS)から配信される中継動画や、米航空宇宙局(NASA)の専門チャンネル「NASAテレビ」の直接中継を視聴することもできる。
ナジャル氏は「宇宙は人類にとって最後のフロンティア。宇宙旅行や探査の分野で今起こっている変化は、地球上での将来の生活に大きな影響を与えるだろう。いつの日か、宇宙にホテルが浮いているのを目撃する日が来るかもしれない。ここでは、ホテルの中に宇宙ステーションが浮いている様子を作り出した」と述べる。
値段は1泊2000ドル(約24万円)近く。カメハグランドの最高経営責任者(CEO)であるカーステン・ラス氏によると、芸術愛好家や収集家らが想定顧客層だという。これらの顧客はエアバスA320機のフライトシミュレーターを1時間にわたり操縦できるほか、スカイダイビングの訓練に使われる空中浮遊を体験することもできる。