急転直下とはまさにこのことだった。11月23日に起きた、靖国神社南門付近の男子トイレ内で爆発音がした事件は、発生から約2週間経った12月9日朝、韓国籍の全昶漢(チョン・チャンハン)容疑者が建造物侵入容疑で逮捕されるという新展開を迎えた。
全容疑者は犯行後一時韓国に出国していたが、この日、日本に再入国。羽田空港で身柄を確保された。
「警視庁は早い段階から、防犯カメラ映像とパスポート写真、通関時の画像を突き合わせて容疑者を特定していた。さらに宿泊していたホテルに残されていた煙草の吸い殻に残されていたDNAと、神社内のトイレに落ちていた吸い殻のものが一致していたことが決め手となった」(捜査関係者)
当初、韓国メディアでは「真の犯人は日本人」説が相次いでいた。韓国の公共放送KBSでは「韓国人や中国人のテロにしようとする動きがある」と報じて日本の謀略を臭わせていたほどだ。
しかし全容疑者の逮捕により韓国メディアは変節。逮捕翌日には、韓国の新聞各紙が、「『靖国事件』容疑者、なぜ自ら日本へ行ったのか」(国民日報)などと、うって変わって逮捕を冷静に受け止める論調をとった。
だがその一方、韓国世論はある特徴的な動きを見せる。インターネットの掲示板を中心に、こんな意見が論じられるようになった。
「カッコいい」
「愛国者だね。靖国を爆破しようとした精神を強力に支持する」
「英雄だ」
「政府は賞を与えろ」
「スカッとする」
「大韓民国の気概を放った憂国の志士を讃えよう」
もちろん中には「卑劣なテロ行為だ」と、全容疑者を批判する意見もあったが、韓国世論の一定数は、全容疑者に好意的だったと判断せざるを得ない。他にも「尊敬します。次は私がやります」といったものや、「どうせなら神社本殿を破壊すればよかったのに」と、被害が小さかったことを残念がる声さえあったからだ。
そして中にはこんな意見も散見された。
「安重根と同列ほどとはいえない」
「尹奉吉、李奉昌義士も堂々と自分のしたことの動機を明かしたのだから、今回の彼も堂々とすれば良い」
安重根、尹奉吉、李奉昌──この3人は韓国では「独立三義士」として英雄視されている人物である。
安重根は1909年10月に満州のハルビン駅構内で伊藤博文を暗殺した。尹奉吉は上海で抗日武装組織韓人愛国団に参加、1932年4月29日の天長節(天皇誕生日)に上海の日本人街で行なわれていた祝賀式典会場に手榴弾を投げ込み、日本軍人ら要人を死傷させる「上海天長節爆弾事件」を起こしている。李奉昌も同じく抗日武装組織韓人愛国団の団員で、1932年1月、東京で昭和天皇暗殺未遂事件(桜田門事件)を起こし大逆罪で死刑となった。
※週刊ポスト2015年12月25日号