ヤクザ社会の新年行事である12月13日の「事始め」。例年、「直参」と呼ばれる直系組長が勢揃いし、盛大な宴会が開かれる山口組の「事始め」だが、2015年は様相が違った。
「分裂騒動の結果、72人いた直参が55人に減ってしまい、宴会も開かれなかった。離脱騒動のあったナンバー3、橋本弘文統括委員長の去就に注目が集まりましたが、これ以上の動揺を抑えるため、当面は人事を動かすことができない。
一方、同日に神戸山口組が開いた納会には、12月に山口組から移籍したばかりの古川組組長が姿を見せるなど、直参が20人集まった。数の上では山口組が優勢とは言え、勢いは神戸側にある。山口組は焦っているはずです」(警察関係者)
そうした焦りが山口組を動かした。ジャーナリストの伊藤博敏氏が解説する。
「分裂後しばらくは表立った動きを控えていた山口組が最近、『神戸山口組の切り崩し手法と実例』と題したマニュアルを内部で配り、『直参及び、その枝の組長は、この情報操作に踊らされることなく、(中略)動揺を防ぐ必要が早急に求められている』と呼びかけました。
情報戦で劣勢の現状を認め、反転攻勢に出るという決意の表われでしょう。上層部は当面、情報戦での巻き返しを図っているが、司忍組長の出身団体で、現山口組の主体となっている弘道会は相手のタマを取ることで勢力を伸ばしてきた組織。年明け以降、反転攻勢のタイミングで実力行使に出る組員が出る可能性はある」
本誌前号では、山口組関係者が、「刑務所に行かせてくれと懇願する組員はあちこちにいる。これ以上(神戸山口組の)好き勝手にはさせない」と不穏な言葉を口にした。両陣営の対立は、危険水域に達しつつある。その暴発の舞台として危惧されるのが、一般参拝客で賑わう「初詣」である。
「警察がマークしているのは、神社やお寺に出る縁日の屋台です。暴力団と繋がっている一部のテキ屋の揉め事が抗争に発展する可能性がある。初詣の屋台は、地元ヤクザが仕切り、この区画は山口組系、この区画は住吉会系などと分かれていることが多い。が、今回の分裂で、山口組に割り当てられていた区画がややこしくなっている。
テキ屋をめぐる対立が末端ヤクザ同士の小競り合いになり、そこから本体同士の抗争に発展する流れを危惧し、警察は神社やお寺の警備を強化する方針です」(マル暴担当の社会部記者)
両陣営のなかには、小競り合いを口実に抗争に持ち込もうと考える過激派もいるという。当然、一般市民が集まる初詣の場で抗争が勃発すれば、かつての山一抗争や宅見組長殺害事件のように一般人が巻き込まれる事態は避けられない。年初から緊張感が漲っている。
※週刊ポスト2016年1月1・8日号