気がつけば“マッキーだらけ”である。『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)、『ノンストップ!』(フジテレビ系)といった情報系番組から、10月にスタートした『じゅん散歩』(テレビ朝日系)まで、番組テーマ曲はどれも槇原敬之(46)だ。
平日の朝昼の時間帯に、一人のアーティストのテーマ曲がこうも並ぶのは珍しい。『ノンストップ!』と『じゅん散歩』は時間帯も被っている。なぜどの局も、マッキーを使いたがるのか。元テレビプロデューサーで上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんは、その秘密が槇原の持つ職人気質にあると語る。
「槇原さんは誰もが認める一流のアーティストであると同時に、優れた“音楽の職人”でもあります。自分の表現したい世界をゼロから作ることもできるし、オーダーに合わせてイメージに合った曲を作ることもできる。時には番組名そのものを入れることもあります。
そこまでやると『アーティストとしての魂を売った』と言われかねないので、普通は簡単には引き受けないものですが、槇原さんは快諾して書き下ろしています。制約のある中でも自分のクリエイティビティーを発揮できる、職人としての自信と実力があるからでしょう。実際、歌詞の中で番組名が浮くようなこともなく、自然に溶け込んでいると思います」(碓井さん・以下同)
『ヒルナンデス!』のテーマ曲『LUNCH TIME WARS』、『ノンストップ!』のテーマ曲『Life Goes On ~like nonstop music~』にはいずれも番組名がサビの中に入っている。『一歩一会』に番組名は入っていないが、曲のタイトルは番組のコンセプトとして使われる言葉をそのまま使用したものだ。どの曲も番組のイメージを盛り込んでいるが、単独でフルコーラスを聴いてみると、紛れもなくマッキーの曲である。
「発注するテレビ局としても、槇原さんには頼みやすいんです。それは人柄もありますが、技術的なことをいえば、作詞・作曲・編曲と全部やってくれるところが大きいと思います。作曲家、作詞家など別々に発注していると調整が大変。槇原さんなら一人に頼めば済みます。秒数まで思いのまま、オーダーに合った曲を作ってくれます。 さだまさしさんなどもいろんな番組のテーマ曲を手がけていますが、あくまでそれはさだまさしさんの曲として耳に残るものです。槇原さんほど依頼主のオーダーに応えてくれるアーティストはなかなかいないんじゃないでしょうか」
朝昼の明るい時間帯に槇原のテーマ曲が集中しているのも理由があるという。
「槇原さんの曲は、ポジティブで軽快なので、明るい時間帯によく合います。その時間帯の情報系番組は女性視聴者をターゲットにしているので、主婦層に嫌われていてはいけませんが、女性心理も踏まえて作られた槇原さんの曲には女性ファンも多く、問題になりません。
番組のテーマ曲に求められるのは、いい曲であると同時に、曲だけが突出して目立っていないということ。曲は主役ではなく、あくまで番組のイメージを補強するものでなければなりません。自己主張と自己抑制のバランスが大事なのです。槇原さんはそこを自由自在に調整しているといえます」
『どんなときも。』から24年。アーティストとして、職人として、円熟期に入ったマッキーに注目である。