こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。2015年12月15日に中国の機関紙「環球時報」に掲載された、「珠海市の偽ホームレスは日収1千元(約1万9千円)、毎日ベンツで出勤している」という題名の報道は、中国国内で大きな話題となりました。
身体に障害があるように偽装する物乞いも
広東省に所在する珠海市は、マカオ特別行政区に隣接する経済特区であり、香港など世界各地から観光客が集まる都市です。珠海市には多数のホームレスが暮らしており、彼らは現地の人々や観光客に物乞いなどを行っているのですが、その中に中国本土から訪れた「偽物」が紛れているのです。
中国ではホームレスを演じて金銭を稼ぐ人物は珍しくありません。彼らは人々に「親族に危篤者がいる!」、「息子の学費が払えない」、「妻が妊娠したけど、医療費が払えない」、「身内が亡くなったけど葬儀ができない」などと同情を誘うような言葉を吐き、金銭を恵んでもらうことを要求するのです。
また自身の発言に真実味を持たせるために、身体に障害があるように見せかける偽ホームレスも存在します。一例を挙げると2011年、河南省鄭州市で左足が欠損した少年が這いつくばりながら物乞いを行っている写真が、「大河網」というメディアのホームページにアップされました。写真を見ると本当に左足がないように見えますが、実は少年が履いていたスボンには穴が開いており、彼が足をうまく折りたたむことにより、膝から先が存在しないように見せていたのです。その証拠に大河網のホームページには、両足で立ち上がった少年の写真も掲載されていました。
他にも定職につくのを嫌がり、歌を披露したり芸を行ったりして金銭を得ようとする偽ホームレスも存在します。彼らの素人同然の歌声は路上から大音量で聞こえてくるため、迷惑に思っている中国人は少なくありません。日本の街中では、「弾き語り」などと呼ばれる路上ミュージシャンをいたるところで見かけます。大変失礼な話ですが、彼らを日銭稼ぎが目的の偽ホームレスだと勘違いしている中国人観光客は少なくないのです。
偽ホームレスは中国ではおなじみの存在であるため、騙される人はほとんどいません。そのため彼らは新たな手法を次々と考案しています。ある親子は二人で偽ホームレスを行っているのですが、息子は父親が病気で危篤だと訴え、父親は息子が病気だと訴えるという行為を日替わりで行っているそうです。いわば物乞いの「リバーシブル商法」とでもいうべき行為です。
15年11月12日には、80歳の老人が路上で吐血し、自分は病気だと訴え通行人たちから金銭を恵んでもらいました。すると通行人の一人が老人の体調を心配し、救急車を呼んだのですが、病院で調べたところ彼の体調には異常が見られず、吐いた血液を調べたところ赤い塗料だったそうです。その後彼は警察の指導を受け、家族のもとに帰ったそうです。悪い冗談のような話ですが、このようなことが実際に行われているのが現在の中国です。
中国の法律には、偽ホームレス行為を取り締まる法律は存在しません。そのため彼らは自らの行為をとがめることがなく、現在の珠海市には50人程度の偽ホームレスが存在しているそうです。裕福な外国人たちを相手にしている彼らは十分な収入を得ているようで、市内の高級マンションを購入し、外国製の自家用車で「出勤」した後、「物乞い」をはじめるそうです。日本のみなさんが中国に観光旅行に訪れた際、ホームレスが物乞いを求めてきたとしても、なるべく相手にしないで下さい。
社会的弱者という立場を利用し、自らのプライドをかなぐり捨てて行う偽ホームレス業は、「稼ぐためならなんでもする」という現在の中国社会の体質を色濃く反映したものだと思います。僕は「身内の不幸」、「身体障害」などといった不幸を切り売りして金銭を稼ぐ偽ホームレスたちの姿を見て、「同情するなら金をくれ!」という、かつて日本で大ヒットしたドラマ「家なき子」の主人公のセリフを思い出したのです。
(孫向文)
中華人民共和国浙江省杭州出身、漢族の31歳。20代半ばで中国の漫画賞を受賞し、プロ漫画家に。その傍ら、独学で日本語を学び、日本の某漫画誌の新人賞も受賞する。近著に『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)