北朝鮮で昨年拘束され、体制転覆を図った罪で年末に終身刑を言い渡された韓国系カナダ人のイム・ヒョンス牧師(60)が、このほど初めて外国報道陣との会見に臨んだ。
部屋のドアが開くと、イム牧師が看守2人に連れられ、足を引きずるように入ってきた。見下したような態度を示す看守に、イム牧師は目を伏せ、弱々しく従っている様子だった。
事前に聞かされてはいたものの、我々にとってイム牧師がこのような扱いを受ける姿は衝撃的だった。
会見前の30分間、我々は北朝鮮当局に、本人の率直な声が聴きたいと交渉を申し入れた。だが会見の形式は変えられないというのが、当局の答えだった。
看守は大きな会議用テーブルのはるか向こう側にイム牧師を連れていく。1人が「座れ」と命じ、イム牧師が座った。続いて「立て」という号令。イム牧師はそれを予想していたかのように、ためらいなく立ち上がった。看守は再び「座れ」と号令をかける。
イム牧師は力なく従い、看守らは向きを変えて振り返りもせず退室した。我々のための演技だったのか、単なる通常の手順だったのかは分からない。看守らはインタビューの間、ずっとドアの外で待機していると聞かされた。
囚人服には「36」という番号。服は清潔だったが、靴には毎日の労働でついたとみられる傷や土の跡があった。
イム牧師は昨年12月の裁判以来、この収容所で強制労働を科されている。ほかに収容者はいないとみられ、姿を見かけたことがないという。週に6日、休憩つきで1日8時間、収容所の果樹園にりんごの木を植える穴を掘る。常時2人の看守に監視され、外界との接触はない。
最初は大変な仕事と感じたが次第に慣れ、運動は体に良いと考えるようになった、とイム牧師は話す。健康状態に問題はなさそうだが、緩い服の外からだと体重が減ったかどうかは分からない。
何か欲しいものがあるか、との質問に「あまりない。ただ聖書を希望しているのだが、まだ届かない」と答えた。さらに家族からの手紙を切望していると話す。家族からはこれまでに2回の手紙と、好物のドライフルーツが送られてきた。
自身からも1通だけ、在平壌のスウェーデン外交官を通して家族に手紙を送った。返事を待ち望んでいるというが、家族の代表者によると、その手紙はまだ届いていないようだ。
イム牧師は1986年に韓国からカナダへ移住。トロントの教会で牧師を務め、北朝鮮には100回以上渡航していた。昨年1月末に中国経由で北朝鮮入りしたのも、通常の人道支援プロジェクトが目的だったとされる。
終身刑を言い渡されてからも信仰は失わず祈り続けているが、北朝鮮への見方は変わったと話す。「北朝鮮の人々は指導者を神格化し過ぎると思っていた。しかし金日成主席と金正日総書記の回顧録を読んで分かったのは、両氏とも決して自分を神とは呼んでいなかったことだ」という。
「あなたが犯した最大の罪は、北朝鮮の最高指導者を悪く言ったことだと思うか」との質問には「そう思う」と答え、「いつか帰還できるよう願っている」「家族や教会のメンバーにもう一度会いたい」と話した。
韓国と北朝鮮が和解し、これ以上自分と同じ思いをする人が出ないよう、毎日祈っているという。
家族へのメッセージを収録するよう勧めると、カメラを見る目に涙をため、「家族が私にとってどんなに大切かを痛感している」「家族は神様からの大事な贈り物。彼らに愛していると伝えたい」と語った。