台湾総統選は16日投開票され、最大野党・民進党の蔡英文主席(59)が与党・国民党候補の朱立倫主席(54)と野党・親民党の宋楚瑜主席(73)を大差で破り、初当選した。独立志向が強い民進党が8年ぶりに政権を奪還し、台湾史上初の女性総統が誕生する。国民党の馬英九政権が進めた対中融和路線が見直されることは確実で、中国の出方によっては東アジア情勢が緊張する可能性もある。
台湾のケーブルテレビTVBSの午後7時45分(日本時間同8時45分)現在の独自集計によると、蔡氏が約640万票、朱氏が約316万票、宋氏が約117万票となっている。
朱氏は16日夜、台北市内の党本部前で「申し訳ない。皆を失望させた。我々は失敗した」と敗北宣言した。さらに敗北の責任を取り、党主席を辞任する意向を明らかにした。
経済不振から脱却できない馬政権への不満が高まり、対中傾斜が世論の反発を招いた。国民党は候補の途中交代など混乱が続き、支持離れが加速した。台湾では2014年春の対中経済協定に反発した学生運動から生まれた「公民意識」の広がりが、同年11月の統一地方選で民進党躍進につながった。こうした地方での勢力伸長が大勝に結びついた。背景には中国の影響力が強まる中、台湾を主体と考える「台湾意識」の高まりがある。
同時実施の立法院(国会、定数113)選挙でも、民進党が主導権を確保する勢いを見せている。歴史的な大敗を喫した国民党は求心力が低下し、万年野党に転落する危機さえはらむ。
争点の対中政策をめぐって蔡氏は「現状維持」を掲げている。「当選したら中国大陸を含め友好国と意思疎通を図る。台湾海峡の安定はみなの共同利益だ。選挙後の情勢も安定維持できる」と訴え、中国と経済関係を深める経済界の不安払拭(ふっしょく)に努めた。ただ民進党は、中国と国民党が交流の基礎に位置づける、「一つの中国」の原則を確認したとされる「1992年合意」を認めていない。蔡氏は、中国との急速な接近で台湾の主体性が傷つく恐れがあるとも警鐘を鳴らす。台湾社会で「台湾意識」が強まる中、今後の中国との距離のとり方が大きな課題となる。
一方、中国は92年合意を認めない民進党とは交流していない。昨年11月の馬総統との中台首脳会談で中国の習近平国家主席は「92年合意の堅持を望む」と強調。独立志向が強い民進党の政権奪還を視野に「現在、両岸関係の最大の脅威は台湾独立勢力の(中国の)分裂活動だ。両岸の同胞は団結して断固反対しなければならない」と圧力を強めた。しかし、求心力を増す蔡氏を相手にする中国は、民進党政権が長期化する可能性を見据え、台湾政策の再検討を迫られそうだ。
蔡氏の就任式は5月20日で任期は4年。蔡氏とペアを組んだ中央研究院の元副院長、陳建仁氏(64)が副総統となる。