国家による言論統制が進むと、国民が官製ニュースを信じなくなり、ネットで広がるデマ情報を「真実」と思い込んでパニックを起こす。中国がそれを実証している。1月4日、江西省久江死で発生した大地震、さらに昨夏の天津市の大爆発事故の際には、様々なデマが書き込まれ多くの国民がそれを信じた。
日本に関するデマ情報も多い。東日本大震災の発生時に広がったのが「核実験説」だ。
〈石原慎太郎は先日、日本も核兵器を持って中国に対抗すべきと発言した。今回の地震は日本が海底で核実験を行なったものだろう。それが自業自得の結果となった〉
また、中国版ツイッター『微博』では、「愛情湯事件」という名で日本人が誰も知らない“日本の猟奇殺人事件”が拡散している。
日本の若い女性が彼氏の浮気に怒って殺害し、内臓を煮込んで食べた。浮気相手の女性も生きたまま唇と乳房を切り取って硫酸で殺害したという内容で、手が込んだことに女性の手記や肉塊を保管した冷蔵庫と女性の“偽造写真”までアップされている。
ありもしない核実験説や猟奇事件は一笑に付すことができるが、政治色の強い反日デマには経済的に実害を与えようという意図が感じられるものがある。
中国各地で発生した反日デモに関して、「扇動したのは2人の日本人留学生だった」と、関係のない英国人英語教師殺人事件の市橋達也・受刑者の写真がアップされたり、「米国が最近、放射能汚染を理由に日本の農産物を全面的に輸入禁止にした」というデマで日本の食品への不安を煽ったりしている。
さらに昨年は国慶節(建国記念日)の期間中、高速道路の料金所で「日本車だけは料金を2倍にする」という、日本車不買を煽るようなデマも広がった。
それでも、中国のネットの発達は長い目で見ると歓迎すべきというのは評論家の宮崎正弘氏だ。
「中国のネットは規制が強いとはいえ、人々は以前より格段に自由に情報交換ができるようになった。いまはデマが多いが、例えば、爆買いで日本に来た中国人は、日本の町にゴミがなくきれいで、日本人も礼儀正しく親切だと実感する。共産党政府に教えられてきた日本人像と違うことに疑問を持ち、それがネットの口コミで広がる。そうすると、中国の国民は次第に反日教育でデマを流しているのが誰か気づくはずです」
●取材協力/西谷格(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2016年1月29日号