韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉をコラムで傷つけたとして在宅起訴され、昨年末、ソウル中央地裁から無罪判決を受けた産経新聞の加藤達也前ソウル支局長の手記「なぜ私は韓国に勝てたか-朴槿恵政権との500日戦争」(本体1400円+税)が発売された。巻末には法廷内のやりとりを再現した裁判の詳報も収録。歴史的、記録的にも価値ある一冊となっている。
本書では、韓国社会の根底にある、「反日」であれば、何をしても構わないという「反日無罪」の実態にもメスを入れ、加藤前支局長の乗った車が裁判所前で襲われた事案や、産経新聞ソウル支局が入るビルの前で、糞尿などを投げつけながら頻繁に繰り返されたデモについても詳細を明らかにしている。
加藤前支局長を名誉毀損で刑事告発したのは、当事者である朴大統領ではなく、右翼団体幹部ら3人。彼らは法廷で「加藤は嫌韓の産経新聞記者だから悪いに決まっている」などと感情的に決め付け、争点となったコラムもきちんと読んでいなかったことなどが判明する。彼ら原告のうち2人は、加藤前支局長の乗った車を襲って傷つけ、ボンネットや車道に寝そべった張本人であることも本書で明らかにされるが、彼らが器物損壊や交通妨害、脅迫などの罪に問われることは全くなかった。
支局前でデモをした人たちも、「日当」を与えられて反日活動をしているグループが中心で、加藤前支局長や安倍晋三首相のお面をつけた人形に火をつけようとしたり、糞尿をかけたりした。日本大使館前の慰安婦デモなども含め、こうした「反日活動」は法律に違反しているケースであっても、「民衆のガス抜き」とみられ、当局からおとがめはほとんどない。支局前のデモでは、警察官がデモのリーダーをともなって支局内に入ってきたこともあり、加藤前支局長は「身の危険を感じた」という。
本書ではさらに、前代未聞の在宅起訴から裁判、判決に至るまでの一連の経緯や、取調室での検事との生々しいやり取り、緊迫した法廷内の様子を詳述。朴政権が「産経に謝罪させる」ことを今回の刑事訴追の目的にしていたとみられることや、大統領周辺の思惑と国民感情で恣意的に法がねじ曲げられていく様子を「人治主義」「情治主義」という韓国特有のキーワードで迫るなど、衝撃的な内容が綴られている。