羽田空港における昼の発着枠の割当交渉が難航しそうな状況です。今回、羽田の発着枠として割り当てられるのが9便と少ないため、ここをめぐって米国系の航空会社の思惑が交錯していることが原因です。日本に航空会社ができるより前から、日本に乗り入れていたデルタ航空(旧ノースウエスト航空)が、日本発着便を大幅に減らしてしまう可能性も出てきました。
政府は、日本の国際化を推進するという立場から、一度は成田に移管した国際線を再び羽田に戻すという試みを行っています。しかし、大きな問題として浮上してきているのが羽田の発着枠の絶対的な不足です。羽田空港には、国際線の発着枠が9万回ほどありますが、これは成田の3分の1以下の水準でしかありません。政府は、運用方法の見直しや一部、都心上空の飛行を認めるなど、発着枠の拡大に努めていますが、絶対的な受け入れ容量が小さいという根本的な問題は解決できていない状況です。また、成田空港についても地域経済など様々な事情から今後も存続させなければなりません。成田にある国際線の枠を羽田にすべて移管することはできないわけです。
日本の空の玄関口が、成田に比べて圧倒的に便利な羽田に戻るということになると、どの航空会社も羽田路線を増やしたいと考えます。しかし、羽田のインフラは貧弱であり、全部の航空会社に希望する枠を割り当てることは不可能です。そうなってくると、これまで成田に積極的に投資し、成田をハブ空港(国際的な拠点となる空港)としてきた航空会社にとっては大打撃となってしまいます。
これまで成田をハブとして、北米路線とアジア路線を展開してきたデルタ航空は、今回の羽田の発着枠拡大に難色を示しています。成田が地盤沈下を起こし、ハブ空港として機能しなくなる可能性があるというのがその理由です。政府としては、羽田は部分開放という形で、各社に少しずつ割り当てる方針ですので、デルタの意向が通る可能性は低いかもしれません。
ただデルタ航空は日本にとって特別な存在であるのも事実です。同社の太平洋路線の前身である旧ノースウエスト航空は日本航空(JAL)が設立される前から日本に乗り入れており、発足当初、自力で航空機の運行ができなかったJALから委託運行を引き受けるなど、日本とは密接な関わりがあります。また日本を本格的なハブとして国際路線を展開する唯一の米系航空会社でもあります。
デルタ航空は、場合によっては、成田から撤退し、アジア地域のハブ空港を中国に移してしまう可能性も示唆しており、そうなった場合には、日本を拠点とする米系航空会社がいなくなってしまいます。こうした状況は、長期的に見ると、日本にとって得にならない可能性が高いでしょう。
このような混乱が発生してしまうそもそもの原因は、羽田から成田に、そしてまた羽田にと、場当たり的に拠点空港をコロコロと変えるという日本の戦略性のなさにありそうです。