欧米の情報機関は昨年11月のパリ同時多発テロ事件に先立ち、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が欧州の5都市でテロを実行するため60人の戦闘員を送り込んだとの情報を入手していたことが分かった。欧州の対テロ当局上層部の情報筋がCNNに語った。
この情報によると、標的とされた都市はパリ、ロンドン、ベルリンとベルギーの人口密集地などで、中心人物はISISの対外作戦部門を率いるアブ・モハメド・アドナニ幹部。ただし、これらの都市への同時攻撃を図った形跡はみられなかったという。
同情報筋によれば、計画についての情報は断片的で確認が難しく、当時具体的な対策を講じるには漠然とし過ぎていた。パリ同時テロの前には、この計画が動き出していることを示す具体的な情報もなかったという。
同情報筋は「ISISが欧州への攻撃に野心を抱いていることは周知の事実だった」と指摘する。
アドナニ幹部は何年も前から一連の音声メッセージで、対ISIS有志連合に参加する欧州諸国、特にフランスやベルギーへの攻撃を予告していた。15年1月にはベルギー警察が、パリ同時テロの首謀者アブデルアミド・アバウド容疑者が同国で計画した大規模テロを阻止していた。
パリ同時テロの計画が欧米当局に全く察知されることなく進んでいたのは驚きだったと、同情報筋は指摘する。当局が事件後になって改めて注目した手掛かりの中に、ISISが欧州へ60人のテロ要員を送り込んだという断片的な情報があった。「このうち20人がパリ同時テロに関与したとすれば、残りの約40人がまだ活動中ということになる」と、同情報筋は懸念を示す。
ベルギー公安当局の前トップがCNNに語ったところによると、ISISは今後、複数の国で同時テロを計画する恐れもあると懸念されている。
ISISは7日付のフランス語機関誌で、仏メディアが報じている欧州同時テロへの懸念を引用し、「我々のライオンたちが欧州に何頭入ったか、まもなく分かる日がくる」と宣言した。
仏ラジオは先週、パリ同時多発テロの際にアバウド容疑者らを乗せたというタクシーの女性運転手とのインタビューを放送した。それによると、アバウド容疑者は運転手に、自分は90人のグループの一員として欧州へ入り、シリア、イラク、フランス、ドイツ、英国籍の仲間がパリ周辺に配置されているなどと話していたという。
米当局者が先週、CNNの番組で語ったところによると、欧州からイラクやシリアへ渡った過激派の約1900人がすでに帰国し、欧州でのテロ攻撃の脅威はかつてないほどに高まっている。米情報当局者はCNNに、テロの危険性が最も高いのはフランスとベルギーで、ドイツや英国でも脅威が強まっているとの認識を示した。