北風が吹き付ける2月中旬の夜だった。首都圏の高級住宅街の一角に白い乗用車が停まった。車内では若い男女が1台のスマホを寄り添って見ている。やがてスマホの画面を伏せると車内は暗闇と化した。そして近づく2人のシルエット。互いに見つめ合い唇が重なると、濃厚なキスを交わした。
それはずっと抑えてきた感情が爆発したかのような情熱的なキスだった--。
助手席に座っていた女性は、NHKの幼児向け番組『おかあさんといっしょ』(Eテレ・月~土、午前8時~)で「うたのおねえさん」を務める三谷たくみ(29)だった。
同番組の放送開始は1959年。以来、幼児向けの教養番組として多くの子供たちに親しまれてきた。なかでも三谷が務める「うたのおねえさん」は「うたのおにいさん」や「たいそうのおにいさん」などと並ぶ番組の顔だ。
「20代目おねえさん」となった彼女は歴代最長タイの8年間を務め上げ、この3月末での卒業を2月12日に発表。それにショックを受けたのは子供たちばかりではなく、三谷の笑顔に癒されていた父親たちの間でも“たくみロス”が広がった。
三谷は卒業会見で、「やり切れたかな。(これからは)ゆっくり過ごそうかと思っています」と話し、堪え切れずに涙を流した。これまでの制約の多い生活やこれから始まる自由な生活に思いを馳せ、万感の思いが溢れたのだろう。
冒頭のシーンに戻る。暗がりの中、三谷は男性の首筋や耳にも唇を這わせる。時折、キスをしながらギュッと抱き合い、再び唇を貪り合う。その繰り返しは実に50分に及んだ--。
やがて別れの時間を迎えたのか、三谷は車から降りて男性に手を振る。だが、名残惜しくなったのか再び助手席に滑り込み唇を突き出した。それは子供たちには決して見せることのない、おねえさんの“1人の女性としての顔”だった。
これは卒業会見から11日後の出来事。多くの報道陣に囲まれる会見をやり遂げ、8年間にも及んだ“窮屈な生活”から間もなく解放されるという安堵感が、この日の三谷の中にあったのかもしれない。
そして、男性は三谷が家に入ったのを見届けると車を走らせた。それまで顔を伏せていたため確認できなかったが、対向車のヘッドライトに照らされ浮かび上がったのは、プロフィギュアスケーターの高橋大輔に似たこのイケメン男性だった。いったい誰なのか。
三谷を直撃した。
--昨日、一緒にいた男性が彼氏ですか?
「え! いやあの、そういうわけではないです」
---お友達?
「はい……昨日は食事に行っただけです」
--うたのおねえさんは恋愛禁止ですよね?
「それは代によって違うんです。私は特に言われておりません。でも、常識で考えて、子供たちに悪い影響を与えることはしないようにしています」
--昨夜、キスしているところを目撃してしまったんです。
「あぁ……あの、今後は結婚とかも考えていて、それで卒業ということにはなったのですが……特に今すぐというわけでは……。ちゃんとお答えできなくて申し訳ありません。普段はうたのおねえさんとして全て決められたことしか話してこなかったので、こういう取材で話すのは難しいです。ごめんなさい」
そういうと記者にペコリと頭を下げて去っていった。NHKに問い合わせたが、「出演者のプライベートについて、特にコメントはありません」というのみだった。
濃厚キスシーンは子供たちには見せられないが、恋人に愛情を注ぐ姿はどこにでもいる20代の女性。ほんの1か月ばかり“フライング”したからといって、イメージを壊すなんて批判は野暮というものだ。長きにわたって幼児教育に献身してくれたたくみおねえさんの卒業後の幸せを、お祈りしています。
(週刊ポスト2016年3月11日号)