<下鴨神社>世界遺産の隣は分譲マンション 境内に建設計画
世界遺産に登録されている下鴨神社(京都市左京区)は2日、境内に分譲マンションを建設する計画を明らかにした。2017年春ごろ完成予定で、土地代として毎年約8000万円が神社の収入となり、50年後に更地で返却される。建設予定地は世界遺産や史跡の指定区域から外れているが、世界遺産の寺社が境内にマンション建設を認めるのは異例。背景には、文化財修理などにかかる多額の費用確保に苦労する事情がある。
下鴨神社は今年、21年に1度社殿を新しくする「式年遷宮」の正遷宮に当たり、収益の一部は今回と次回の遷宮の費用に充てる予定という。
境内に広がる「糺(ただす)の森」の整備計画の一環。予定地は世界遺産区域から「御蔭(みかげ)通」を挟んだ南側の約9650平方メートル。現在は参道を挟んで東側が研修道場、西側が有料駐車場になっている。
マンションは、鉄筋コンクリート地上3階建て8棟(合計107戸)。京都市の景観や高さの規制に合致するよう、高さは10メートル以内で屋根は日本瓦とする。敷地内には糺の森の植生と同じニレ科の樹木を植える。
市によると、現在は開発業者との間で事前協議中。用地は市の特別修景地域などに指定されており、今後は市の美観風致審議会に諮問して、許可手続きを進めるという。今年11月の着工を目指す。
下鴨神社によると、予定地にはかつて神職の社宅があったが、戦後の財政難からゴルフ練習場を造って1980年代前半まで利用。その後は駐車場としていたが、近年は周辺に駐車場の整備が進み、利用が減少していた。今回の遷宮には約30億円かかる見込みで、国の補助金(約8億円)を除く分は大企業などから寄付を見込むが、思うように集まっていないという。
新木直人宮司(77)は「さい銭やご祈とう料などは普段の維持管理費に充て、式年遷宮など特別の経費は寄付頼み。しかし、檜皮(ひわだ)のふき替えなど修理費用は年々上がり、寄付を収入の柱に考えるのは難しい。神社を次世代に残すため、この方法しかないと決断した」と話している。【花澤茂人】
◇下鴨神社
正式名称は賀茂御祖(かもみおや)神社。京都屈指の歴史を持つ神社で、創始は太古までさかのぼるとされる。京都三大祭の一つ「葵祭(あおいまつり)」(5月15日)は下鴨神社と上賀茂神社(京都市北区)の例祭。東西の本殿は国宝で、1994年に「古都京都の文化財」として世界遺産に登録され、境内の大半が対象区域。境内の「糺の森」は古代原生林の植生が残るとされ、国の史跡に指定されている。
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京都の歴史ある寺社周辺の開発を巡っては、過去にトラブルになったケースがある。
2013年には、京都御苑(ぎょえん)に近い梨木(なしのき)神社(京都市上京区)が境内に分譲マンション建設を計画。神社本庁が「本殿中央の延長線上に位置して参道を塞ぐのは望ましくない」と難色を示し、神社が本庁から脱退する事態となった。同じ時期には、銀閣寺(左京区)近くの「哲学の道」沿いで宅地開発の話が持ち上がったが、地元住民らの反対もあり計画は白紙に戻った。
世界遺産周辺の開発を巡っても、度々論争が起きている。06年に原爆ドーム(広島市)の南東約100メートルに、ドームを見下ろす高層マンションが建設され、被爆者団体などが反発。その後、市は周辺の建物に高さ制限を設けた。13年には奈良県が若草山(奈良市)にモノレールを建設する構想を明らかにしたが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関・イコモスの国内委員会などから慎重意見が相次ぎ、計画は棚上げされた。