千年前の薬で耐性菌が死滅 中世の医学書から再現
1000年前の中世の医学書に記されていた眼病の治療薬に、抗生剤の効かない耐性菌を死滅させる手がかりがあるかもしれない――。そんな研究結果を英ノッティンガム大学の研究チームが発表した。
この治療薬の製法は、大英図書館が所蔵する10世紀の医学書「Bald’s Leechbook」に、眼病の治療薬として紹介されていた。同書は世界最古級の医学書といわれる。
抗菌作用があるといわれるニンニクなどの成分が使われていたことから同大学の専門家が着目し、同書を翻訳。微生物専門家の協力を得て、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する効き目を調べた。
薬品の成分はネギ属の植物2種(ニンニクと玉ネギまたは西洋ネギ)とワイン、牛の内臓から採取する胆汁。これを真ちゅうの容器で醸造し、9日間置いた後に布でこす。
同書には各成分の比率なども詳しく記述されていたことから、研究チームは9世紀に存在していたワイナリーのワイン探しも含め、その製法をできるだけ忠実に再現した。
出来上がった薬品を培養したMRSAに対して試したところ、抗ブドウ球菌薬に匹敵する効能があることが判明。バイオフィルム(生物膜)に守られて密集していた数十億の細胞が数千にまで減り、極めて強力な殺菌効果があることが分かったという。
米国の研究者に依頼して生体内での作用を検証した結果、従来の抗生剤を使った治療以上に効果があるらしいことも分かった。マウスを使った生体実験では、MRSA菌を最大で90%死滅させることができたとしている。
その後3回にわたって薬品を最初から作り直して検証した結果でも同じ効果が再現でき、容器に入れて冷蔵庫の中で長期間保存しても、薬品の効能は変わらなかったという。
薬品が効く仕組みについては完全には解明できていない。しかし複数の成分が作用して細菌の細胞を別々の面から攻撃し、耐性能力を失わせる可能性や、成分を組み合わせてアルコールに浸す過程で細菌攻撃能力の高い分子が形成される可能性が指摘されている。
この成果について研究者は、「1000年前の抗生剤が本当に機能するとはいまだに信じられない」「最初の結果が出た時は、ただぼう然とした。こんな結果が出るとはまったく予想していなかった」と振り返る。「研究室ではうまくいっても、抗生剤として通用するという保証はない。それでもうまくいく可能性はある」と話している。