「産経問題」は日韓の大きな外交問題に 価値観共有できぬ国、 加藤達也前支局長手記
3月30日の公判で、朴槿恵大統領をめぐる当時の噂を事実上否定した李東根(イ・ドングン)裁判長の見解は、これまでの審理や検察の捜査に則せば妥当なものだろう。
私はその見解に異を唱えるつもりはない。
在宅起訴直前の昨年10月2日に行われた3回目の事情聴取で、取り調べを担当した高泌亨(コ・ピルヒョン)検事はこう問うてきた。
「当検事室が確認したところ、セウォル号事故発生当日、問題となった7時間に朴槿恵大統領は青瓦台内で事故に関連して書面と有線(電話)で報告を受け、指示をして、その職務を遂行していたものと確認されているが、どうですか」
私は、次のように答えた。
「コラムで噂を取り上げた当時には明らかでなかった社会的関心事がその後、検察の捜査で明確になった。これは社会的に有意義な、いいことだと思います」
なぜなら、コラムは朴大統領の噂を書こうとしたのではなく、こうした噂が流れていること自体が政権に対する韓国社会の評価を表しているということを日本の読者に伝えたいと書いたものだからだ。
裁判長は、私がコラムを書いた当時には表に出ていなかった元側近、鄭(チョン)ユンフェ氏の携帯電話の通信記録や大統領府警護室の記録などを基に合理的な判断にのっとり一定の結論を引き出した。
私のコラムをめぐる裁判がきっかけとなって、結果的に韓国国民も疑問に思ってきた「噂」の内容が裁判所によって否定された。
× × ×
私は昨年10月8日にソウル中央地検によって在宅起訴された。同8月の「出国禁止」からは7日でちょうど8カ月となる。この間、いろいろなことがあった。
在宅起訴であるため、裁判への出廷義務がある以外は日常生活において制約を受けることはない。韓国国内ならば自由に行動できる。
ただ、今年3月5日にマーク・リッパート駐韓米国大使が刃物で襲撃される事件が発生した。昨年11月27日の初公判の際には、威勢を示したい勢力が法廷内で騒ぎを起こし、裁判所敷地内で私が乗った車が強制的に停止させられ脅迫・暴力行為を受けるという問題もあった。
こうしたことから、不測の事態を避けるため、不特定多数に接するような取材は控えざるを得ない日々が続いている。
昨年10月1日に東京本社社会部編集委員への異動を発令され、警察庁と拉致問題の担当となった。この間、イスラム過激派による犯行で複数の日本人が犠牲となった。日本にいたら、担当していたであろうこうした事象が伝えられるたびに、胃が締め付けられるような焦燥感を覚える。妻が3カ月に2度ほどのペースで韓国を訪れ、家族や親戚の様子を伝えてくれることで、前向きな気持ちを保っている。
現在、「産経問題」は日韓間の大きな外交問題となっている。これは私としても本意ではなく、残念なことだ。
外国の特派員を、最高権力者をめぐる社会・政治状況を伝えたコラムが気に入らないからといって刑事裁判にかけ、長期間出国を禁ずるという措置に、日本政府はもとより日本に住む多くの人々が驚愕(きょうがく)していると聞いた。
これまで日本国民の多くが共通の価値観を持つ国だと認識していた韓国が、実は「自由・民主主義」や「言論の自由」といった、現在の国際社会が重視する価値観とはかけ離れた行為をしていることへの失望がどれほどだったかを示しているように思う。
日本国内からだけではなく、韓国の知人、友人の多くも私の置かれている状況を心配し、韓国政府の措置に疑問を呈する言葉をかけてくれていることには、感謝とともに、心強く思っている。
3月30日の公判で、朴槿恵大統領をめぐる当時の噂を事実上否定した李東根(イ・ドングン)裁判長の見解は、これまでの審理や検察の捜査に則せば妥当なものだろう。
私はその見解に異を唱えるつもりはない。
在宅起訴直前の昨年10月2日に行われた3回目の事情聴取で、取り調べを担当した高泌亨(コ・ピルヒョン)検事はこう問うてきた。
「当検事室が確認したところ、セウォル号事故発生当日、問題となった7時間に朴槿恵大統領は青瓦台内で事故に関連して書面と有線(電話)で報告を受け、指示をして、その職務を遂行していたものと確認されているが、どうですか」
私は、次のように答えた。
「コラムで噂を取り上げた当時には明らかでなかった社会的関心事がその後、検察の捜査で明確になった。これは社会的に有意義な、いいことだと思います」
なぜなら、コラムは朴大統領の噂を書こうとしたのではなく、こうした噂が流れていること自体が政権に対する韓国社会の評価を表しているということを日本の読者に伝えたいと書いたものだからだ。
裁判長は、私がコラムを書いた当時には表に出ていなかった元側近、鄭(チョン)ユンフェ氏の携帯電話の通信記録や大統領府警護室の記録などを基に合理的な判断にのっとり一定の結論を引き出した。
私のコラムをめぐる裁判がきっかけとなって、結果的に韓国国民も疑問に思ってきた「噂」の内容が裁判所によって否定された。
× × ×
私は昨年10月8日にソウル中央地検によって在宅起訴された。同8月の「出国禁止」からは7日でちょうど8カ月となる。この間、いろいろなことがあった。
在宅起訴であるため、裁判への出廷義務がある以外は日常生活において制約を受けることはない。韓国国内ならば自由に行動できる。
ただ、今年3月5日にマーク・リッパート駐韓米国大使が刃物で襲撃される事件が発生した。昨年11月27日の初公判の際には、威勢を示したい勢力が法廷内で騒ぎを起こし、裁判所敷地内で私が乗った車が強制的に停止させられ脅迫・暴力行為を受けるという問題もあった。
こうしたことから、不測の事態を避けるため、不特定多数に接するような取材は控えざるを得ない日々が続いている。
昨年10月1日に東京本社社会部編集委員への異動を発令され、警察庁と拉致問題の担当となった。この間、イスラム過激派による犯行で複数の日本人が犠牲となった。日本にいたら、担当していたであろうこうした事象が伝えられるたびに、胃が締め付けられるような焦燥感を覚える。妻が3カ月に2度ほどのペースで韓国を訪れ、家族や親戚の様子を伝えてくれることで、前向きな気持ちを保っている。
現在、「産経問題」は日韓間の大きな外交問題となっている。これは私としても本意ではなく、残念なことだ。
外国の特派員を、最高権力者をめぐる社会・政治状況を伝えたコラムが気に入らないからといって刑事裁判にかけ、長期間出国を禁ずるという措置に、日本政府はもとより日本に住む多くの人々が驚愕(きょうがく)していると聞いた。
これまで日本国民の多くが共通の価値観を持つ国だと認識していた韓国が、実は「自由・民主主義」や「言論の自由」といった、現在の国際社会が重視する価値観とはかけ離れた行為をしていることへの失望がどれほどだったかを示しているように思う。
日本国内からだけではなく、韓国の知人、友人の多くも私の置かれている状況を心配し、韓国政府の措置に疑問を呈する言葉をかけてくれていることには、感謝とともに、心強く思っている。