戦後70年を迎え、歴史認識問題で日本への攻勢を強める中国の習近平・国家主席。その権力は決して盤石ではなく、対日外交にも影響を与える国内闘争からは目が離せない。中南海に太い取材ルートを持つウィリー・ラム氏(ジャーナリスト、香港中文大学教授)が、最新情勢をレポートする。
「ついに、習近平と江沢民の全面戦争が始まった。仁義なき師弟対決だ。中国を真っ二つに割る熾烈な権力闘争になるだろう」
上海の中国共産党幹部は、語気を強めてそう語った。中国の労働節(メーデー)連休明けの5月4日、上海市の党・政府合同幹部大会で新たな市の規定が公布され、これが党幹部たちを浮き足立たせているのである。
規定は、〈上海市の指導幹部の配偶者と子女、および子女の配偶者の商業活動を管理することについて、上海市がさらに一歩規範を加えることに関する意見〉という極めて長い名前で、簡単にいえば、「上海市幹部のファミリービジネス厳禁」とするものである。
上海市で党と政府合同の幹部大会が開かれるのは2006年9月に当時の市トップである陳良宇・党委書記が汚職などで解任されて以来、約9年ぶり。しかも、規定の適用範囲は中国共産党委員会や市政府、裁判所、公安(警察)、大学、国有企業、軍、港湾など市内の110以上の機関を含む公務員全体に及んでいる。
習近平・国家主席は2012年11月、中国共産党の最高指導者に就任した第一声で、「トラもハエも叩く」と宣言し、大幹部だろうがヒラだろうが汚職や腐敗は許さないと強調した。その後の2年あまりで党や政府、企業などを含め25万人以上の幹部が摘発された。
山西省では逮捕者が多すぎて300近くもの幹部ポストが空席になっているし、北京市郊外の高級幹部専用の秦城監獄は定員を超え、拡張工事に追われている。
全国的に厳しい腐敗取り締まりが続くなか、上海市だけで「幹部のファミリービジネス厳禁」が定められるのは奇妙というほかはない。腐敗一掃を掲げるならば、上海だけでなく全国一律で禁止するのが自然だ。前出の幹部は言い切る。
「『上海は中国で最大の商業都市だから、全国に先駆けて模範を示すべき』というのが北京の中央指導部の言い分だが、もちろん本音は全く違う。上海は江沢民の牙城だ。習近平の狙いは、ずばり江沢民ファミリーを摘発し、いまだに隠然たる影響力を持つ江沢民を黙らせることだ」
この幹部によると、習は昨年9月と10月の2度にわたって、腐敗を取り締まる党中央規律検査委員会の中央巡察隊を100人規模で上海に送り込み、党・政府・軍機関はもちろん、江沢民の息がかかった国有企業などを徹底的に調べ上げて大量の重要文書を押収した。その上で、「一部の幹部の配偶者や子女らが経済・商業活動に携わり、不正な収入を得ている」とし、上海市幹部のファミリービジネスを禁止する規定を早急に作成するよう通知した。
市トップの韓正・党委書記ら市幹部を驚かせたのは、中央規律検査委が調査報告のなかで、江沢民の息子の江綿恒や、その息子の江志成の名前を挙げ、「合法とは言い難いビジネスに手を染めている」と名指しで批判したことだった。