トヨタ自動車の常務役員で米国人のジュリー・ハンプ容疑者(55)が、麻薬オキシコドンの錠剤を米国から密輸した麻薬取締法違反の疑いで警視庁に逮捕された事件で、豊田章男社長(59)は19日、テレビカメラの前で「世間をお騒がせして、誠に申し訳なく思っている」と謝罪した。日本はおろか世界のトップ企業に君臨するトヨタを襲った信じられない不祥事。その裏側には、新型株を巡る米国の関係筋による嫌がらせとの見方が出ている。
ハンプ容疑者の逮捕から一夜明けた19日、トヨタ自動車は都内で会見を開き、豊田社長は「ハンプ氏は我々にとって、かけがえのない大切な仲間。仲間を信じ、当局の捜査に全面的に協力する。法を犯す意図がなかったことを明らかにされることを信じている」と沈痛な表情で話した。
警視庁組織犯罪対策5課によれば、11日に成田空港の東京税務職員が米ケンタッキー州の空港から国際宅配便で届いた小包の中に、麻薬オキシコドンの錠剤57錠が入っているのを見つけ、警視庁に通報した。
小包には錠剤のほか、子供のおもちゃのようなネックレスやペンダントが詰められていた。錠剤57錠のうち、39錠は箱の底に敷き詰められ、13錠はペンダントのケースに入れられ、5錠は紙袋に入っていた。
オキシコドンはがん患者などの鎮痛剤として使われる一方、砕いて使用するとヘロインに似た麻薬性があり、米では乱用が社会問題化している。2009年に亡くなったマイケル・ジャクソンさんをはじめ、米ロックアーティストのコートニー・ラブが過去に過剰摂取を報じられたほか、08年に薬物の過剰摂取で死亡した俳優ヒース・レジャーさん、09年に死亡した人気DJアダム・ゴールドスタインさんらも使用したとされる。専門家はその依存性の高さに警鐘を鳴らす。
米国では医師の処方箋があれば、手に入り、日本に持ち込む場合は診断書などとともに本人が携帯して、持ち込む場合だけ認められている。警視庁はハンプ容疑者が輸入を禁じられている麻薬と認識していた可能性があるとみて、入手経路や発送者などについて調べるほか、同容疑者の尿を鑑定し、使用についても調べる方針だ。
ただオキシコドン密輸での逮捕は珍しい。
「この薬は米国では一般的な鎮痛剤としても使われている。申告すれば合法ですし(ハンプ容疑者は)なによりトヨタの常務役員。初犯ですから事情聴取で済ませるところです。逮捕にまで踏み切ったのには、ハンプ容疑者がよほどの中毒者だったか、事件のもみ消しを許さなかった米側によるトヨタへの嫌がらせという見方がささやかれています」(市場関係者)
トヨタは17日に開いた株主総会で、新たな株が承認された。「AA型」と名づけられたこの株は、5年間売却できないが、発行価格でトヨタに買い戻し請求が可能なため事実上、元本が保証される。普通株と同じように配当があり、議決権も与えられる“お買い得感満載”の新株なのだが、これが米関係筋の怒りを買っていたというのだ。
「米国の投資家や株主に助言する米ISS社が反対に回ったように新株は原則、日本国内の個人投資家しか買えないんです。トヨタは安定株主を求めると言いながらも平等に扱わなくてはいけない株主に差別的な対応を取った。米国ではただでさえ、トヨタバッシングがある中、今回の新型株発行には相当な反発や批判が高まっていた」(前出の関係者)
製造業の雄でアベノミクスの中心に立つともいえるトヨタの不祥事には“政治的配慮”がいくらでも働くはずだが、それを許さぬ米側の強い圧力が裏で動いたということなのか。
「警察というのは米側と蜜月関係にあり、政権の影響力が及ばない部分もある」(政府関係者)
唯一、トヨタに配慮されたのは、逮捕が株主総会の翌日だったという点ぐらい。豊田社長は「(新型株発行の遅れなどが)全くないように全員心一つにしてやっていくのでご心配いらない」と話したが、海外から招いた初の女性役員が就任早々に起こした不祥事のショックは計り知れない。