日本と中国の財政当局が金融・財政問題を協議する「日中財務対話」が6月6日、中国・北京で3年2カ月ぶりに開かれた。アジアのインフラ支援策で主導権争いを繰り広げる両者の協議は波乱含みも予想されたが、結果は経済・金融分野で想定以上の歩み寄りをみせた。両トップの距離をグッと縮めるポイントになったのは意外にも“たばこ”だった。
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■麻生財務相の大ファンになった楼財政相
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「日本に学びたいことがたくさんあるんです」
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「協力しますよ」
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中国の迎賓館である北京の釣魚台国賓館-。屋外にある喫煙所で6月5日夜に麻生太郎財務相と中国の楼継偉財政相は、和やかな雰囲気で葉巻とたばこをくゆらせていた。
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二人のほかにその場にいたのは通訳だけ。晩餐(ばんさん)会の最中、楼財政相から「たばこを吸いにいきましょう」と声をかけ、2人は会場を抜け出した。話題は日中の新たな金融協力、中国が来年議長国となる20カ国・地域(G20)での議題設定など多岐にわたり、気がついたら40分もの時間が過ぎていた。
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麻生財務相は、楼財政相の急接近について「安倍首相の後ろにいるのは麻生だなと気付いたんだろう」とみている節もあるが、歯にきぬ着せぬ物言いの麻生財務相とサシで長時間話した楼財政相は「彼の大ファンになった」と周囲に言ってはばからないという。
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会場に戻った後、しばらくして楼財政相は再び、麻生財務相をたばこに誘った。同行筋は、たばこ談義を契機に2人を「すごい胸襟を開いた関係になったのが端から見ても分かる」を評する。
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両トップの関係を映すかのように、翌日6日の財務対話本番では、日中の経済・金融分野の関係強化を相次いで打ち出し、協調を演出した。
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対話後に発表した共同文書では「共通の利益に基づき、開発金融機関との協調も含め、アジアのインフラ建設を推進する」と、日本が最大出資国のアジア開発銀行(ADB)と中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)とで協調姿勢を探る姿勢を盛り込んだほか、金融分野での協力の深化についても明記した。
とくに、日本側を驚かせたのは、楼財政相が会議冒頭に「人民元建て債券発行や日本円と人民元の直接取引の推進など…」と金融協力について具体的に言及した点だ。もともと事前すり合わせの段階で、共同文書に金融協力強化という抽象的な文言を入れていたが、さらに踏み込んだ発言が飛び出した。
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■金融協力の強化にも踏み込む
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そしてこの発言は月内に具現化した。三菱東京UFJ銀行は6月18日に人民元建て債権を国内で初めて発行すると発表。同行はタイミングをうかがっていたが、財務対話での中国政府の歓迎の意思を好機と捉えた格好だ。
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一気に盛り上がりを見せた日中経済関係だが、わずか1カ月前の5月3日にアゼルバイジャンの首都バクーで開かれた日中韓財務相会議とは様相が違った。その際は麻生財務相と楼財政相はほとんど目も合わせることがなかったという。沖縄県尖閣諸島問題を契機に両国関係は冷え込み、日本が財務対話の開催を呼びかけていたが応じなかった経緯もある。ここにきて、中国の経済における対日姿勢は明らかに軟化している。
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背景には、中国経済が直面する構造変化がある。国内総生産(GDP)成長率は2010年の10%台から14年には7%台になり、これまでの高成長からの転換を迫られている。加えて、労働者の人件費の高騰によって、シチズンやパナソニックなど日本の製造業が相次ぎ現地工場を閉鎖。日本の対中投資額は14年上期に前年同期比で半減した。中国は資本の流出を懸念しており、経済関係を強化して日本に投資を求めたいのが本音だ。 .
さらに、中国は人件費高騰に伴う労働集約型から知的集約型への産業形態のシフト、過剰設備問題の軟着陸、不良債権問題の処理、少子高齢化への対応など、経済の構造調整期を迎えている。これらは日本が80~90年代、そして現行の成長戦略でまさに経験したことだ。中国からすれば日本に学びたいことが山ほどあるというわけだ。
こうした中、15年4月に安倍晋三首相と習近平国家主席が2回目の首脳会談を行い、5月下旬には自民党の二階俊博総務会長が3000人の訪中団を結成し、習首席から歓迎の意を示された。「これがゴーサインになった」(政府関係者)といい、財務対話での麻生財務相と楼財政相との急接近にもつながっていった。
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一方の日本は「中国の下心は百も承知」(関係者)だが、隣国で経済の急速な成長をみせる中国との関係は無視できない。しかし、AIIBの発足が象徴するように、価値観を共有しておらず、ガバナンスに問題を抱える中国との付き合い方は難しいのが実情だ。
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その点、今回の財務対話では中国と良い向き合い方の好事例が示せたとの見方が多い。中国に協力する一方で、国際金融機関同士の協調を引き出したからだ。AIIBは理事会の融資案件の承認審査といったガバナンスや、環境・社会への影響を配慮した審査基準などに問題があるが、協調融資でADBに乗ってくれれば、グローバルな基準をクリアし、AIIBに対する懸念を払拭できる可能性がある。
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日本政府のスタンスは、中国と関わり合いを持ちながら、いかに影響力を効かせ、中国の体制や行動を引き寄せることができるかだ。協調姿勢を築きながら、どう国益を確保していくかはこれからも課題になる。(万福博之)