深泥池といえば、関西では心霊スポットとして有名かもしれないが、「学術的に貴重な池」でゆっくりと散策も楽しめる。
世界遺産・上賀茂神社と宝が池公園に挟まれた緑の多いエリアに深泥池はある。
池の周囲は約1.5キロで北東側の一部を除いて、ほぼ歩いて一周できる。南側の岸辺に近づくと、ひらひらと独特なリズムで飛びまわるトンボがいた。
青紫の羽の先端が透けており、チョウトンボと分かった。各地で減少が伝えられるチョウトンボが、市街地に隣接する都会の池に無数にいるとは驚きだ。胴体が赤いショウジョウトンボや、黄や青の色鮮やかなイトトンボも。
京都市によると、深泥池で生息が確認されているトンボは50種以上という。日本に分布するトンボは約200種で、深泥池だけで約4分の1が生息していることになる。まさに「トンボの楽園」だ。
深泥池の成り立ちは14万年前後とされ、氷期からの動植物が現存し、生物群集全体が国の天然記念物となった。
この池の大きな特徴のひとつが、池全体の約3分の1を占める浮島の存在だ。枯れた水草が池の中で堆積し、湿原を形成している。
京都大大学院人間・環境学研究科の西川完途准教授(生物学)は毎年2回、深泥池の両生類などの調査を続けているという。今年4月には特別に京都市の職員らとボートで浮島に渡った。
このときは、生息の南限が深泥池とされる北方系植物のホロムイソウや、ニホンアカガエルのオタマジャクシなどを観察した。
「京都市内ではめったにお目にかかれないカスミサンショウウオやダルマガエルも生息しており、これほど学術的に貴重な都会の池は全国的にも珍しい」と西川准教授は話す。
一方、近年は貴重な深泥池の生態系に異変も。ブラックバスやブルーギルが増えているほか、一昨年には食虫植物で外来種のオオバナイトタヌキモが繁殖した。
定期的に駆除を行う地域住民の保全意識もあって、オオバナイトタヌキモは減少し、今はジュンサイの丸い葉が水面を覆い、岸辺には水生植物のミツガシワが青々と茂っている。
池畔に住んで50年以上という工務店経営、井上實さん(83)は「春はミツガシワが白い花を咲かせ、夏から秋にかけてはトンボが飛び交う。冬は浮島が沈んで、多くの水鳥も飛来します」。四季折々の風情が楽しめるそうだ。(西家尚彦)
【深泥池】一般的には「みどろがいけ」と読まれるが、京都市は「みぞろがいけ」と表記。面積は約9ヘクタールで昭和2年に水生植物群が国の天然記念物に指定され、63年に生物群集全体が対象となった。水中で生活するミズグモが昭和5年、国内では初めて深泥池で見つかった。