先住民族ネネツ人の言葉で「世界の果て」を意味するロシア・西シベリアのヤマル地方。8日、高度100メートルを飛ぶヘリコプターから見下ろすと、地平線まで広がるツンドラの平原に、月面のクレーターのような巨大な穴が現れた。ロシアメディア以外では最初の現地取材だ。
輸送用ヘリの操縦士が2014年6月、初めて見つけた。最寄りの拠点となる街から約400キロ離れ、トナカイ遊牧民がわずかに行き交う北極圏にある。
地元政府の緊急要請でロシアの科学者が調査を始めた。穴は直径約37メートル、深さ約75メートルあった。その後、同様の穴の報告が相次ぎ、4個が確かめられている。
では、穴はどのようにして生まれたのか。隕石(いんせき)の衝突、不発弾の爆発、宇宙人の襲来――。出来た瞬間を見た者はおらず、さまざまな臆測がされた。
真冬には気温が零下40度まで下がる厳寒の地。地中には永久凍土が数百メートルの厚さで広がっている。メタンが多く含まれ、近くには世界有数の天然ガス田もある。研究者の間では「永久凍土が溶け、メタンガスの圧力が地中で高まって爆発した」との説が有力だ。
ロシア科学アカデミー石油ガス調査研究所のワシリー・ボゴヤブレンスキー教授は「ここのところの異常に高い気温の影響を受けた可能性がある」と話す。将来地球温暖化が進み、凍土全体から、温室効果の高いメタンの大量放出が始まれば、さらに温暖化を加速させかねない。