台湾の在比留学生、日本人装いトラブル回避 台比関係緊張で
フィリピン公船による台湾漁船銃撃事件で台比間の緊張が高まっている。在台フィリピン人労働者への風当たりが強まり政府は市民に冷静さを呼びかけているが、一方でフィリピンに留学している台湾の学生も、身を守るため日本人を装うなどの自衛策を取り始めているようだ。
2005年からフィリピンで医学を学んでいる呉さん(=写真左)は、事件後に不安を感じたため、外出の際はわざと日本語を話し、日本人のふりをしてトラブルを回避しているという。フィリピンに滞在する台湾のビジネスマンや留学生の多くがシンガポールやマレーシア人などを装っているとのことで、呉さんは「台湾人であることを口にしにくい雰囲気がある」と話す。
フェイスブック上には不明瞭な暴行シーンの写真が出回り、「在台フィリピン人が攻撃を受けている」などの説明とともに「目には目を」との呼びかけがなされ、呉さんのフェイスブックにも「台湾に帰れ」との書き込みがあったという。
台湾では現在までのところ、偶発的なトラブルを除き実際に事件に起因しフィリピン人に暴力を加えた事例は確認されていない。ただ、ネット上には反フィリピン感情をあおる書き込みが相次ぎ、一部ではフィリピン製品の撤去や「フィリピン人お断り」の張り紙を出す店などが出始めており、自治体が姉妹都市関係を破棄するなど対比感情は急速に悪化している。
馬総統「速やかに合同調査を」=台湾漁船銃撃事件
馬英九総統は18日、国家安全会議を開き、フィリピン公船による台湾漁船への銃撃事件について、平等互恵の原則の下でフィリピンとの合同調査を速やかに行うべく、引き続きフィリピン側と協議するよう関係各部に指示を出した。
フィリピンの駐台代表(大使に相当)は台湾と合同での事件調査を了承、16日には調査チームがマニラ入りしたが、フィリピン側はその後態度を一転させ「正式な手続きがない」などの理由で対応を拒否、調査団は18日帰国した。これを受け馬総統は同午後、事件後5回目となる国家安全会議を開き、2時間にわたり合同調査問題について集中討議した。
総統府報道官によると、馬総統は会議の席上、台比双方が実務的な態度で調査協力を行うことで真相解明が可能となると述べ、引き続き合同調査の実現に努力する考えを強調。法務部と外交部に対し、フィリピンとの交渉を続け、平等互恵の原則に基き速やかにこの問題を解決するよう指示した。
台比間では事件直前の先月19日に刑事司法協力協定を結んだばかりで、馬総統は、合同調査の実現は協定を着実に実践するよい契機となるとも指摘した。
報道官は調査団がフィリピンで受けた不本意な待遇に強い不満を表明しているが、一方で総統府関係者は、今後はこのような事態を防ぐため書面でのやり取りを徹底すると話している。
台湾、漁船船員は「意図的に殺された」と主張 フィリピンは受け入れず
台湾の漁船が9日にフィリピンの沿岸警備隊に銃撃され、65歳の台湾人船員1人が死亡した事件で、フィリピン当局は18日、この船員が「意図的に殺された」とする台湾側の主張を受け入れない姿勢を示した。
フィリピン当局、台湾漁船銃撃を認める
事件を契機に、台湾とフィリピンの外交関係は冷え込んでいる。フィリピンの沿岸警備隊は、漁船が自国の領海に侵入したと主張した。
台湾の捜査チーム幹部は、船員らが隠れていた漁船の操縦室に銃弾の大半が撃ち込まれていたと指摘。幹部はマニラ(Manila)市内で開いた記者会見で、「証拠を総合的に判断すると、フィリピンの警察当局が漁船「広大興28号(Guang Ta Hsin 28)」の船員らを意図的に銃撃していたのは明らかであり、殺人の意図があったことを示している」と述べた。
事件発生現場は、フィリピン政府が領海、台湾当局が排他的経済水域(EEZ)をそれぞれ主張している海域にある。台湾は事件を踏まえ、フィリピンに対する制裁措置を発動した。
フィリピンのベニグノ・アキノ(Benigno Aquino)大統領は15日、漁船の違法操業を取り締まる沿岸警備隊の任務で「意図せざる」死者が出たと述べ、「個人的」に謝罪を表明。台湾はこれを受け入れず、台湾の駐フィリピン代表(大使に相当)召還、フィリピン人労働者の新規雇用を凍結するとともに、フィリピン北方の海域で軍事演習を行った。
フィリピンは中国政府と正式な外交関係を結ぶ一方、台湾との通商関係を維持。台湾では約8万7000人のフィリピン人が雇用されている。
フィリピンのジェジョマル・ビナイ(Jejomar Binay)副大統領は18日、事件に反発した台湾人にフィリピン人が襲撃されたとの報道を踏まえ、フィリピン人労働者の安全確保を台湾当局に要請。公文書の発言記録によると、同副大統領は記者団に対し、「(フィリピン人が)棒で殴られ、4人が入院したと新聞などで報道されている」と語ったという。
台湾のメディアは、若者の集団に襲撃されたフィリピン人1人が病院で治療を受けたと伝えた。
海外で生活または就労する出国するフィリピン人は1000万人近くに上り、毎年数百億ドルが母国に送金され、フィリピン経済を支えている。
台湾で再び反原発デモ 勢いは沈静か
台北市内で19日午後3時から、民間団体の主催する反原発デモが行われる。第4原発(=写真)の建設中止を訴え市内を行進、夜には総統府前で集会を開く。ただ原発問題への関心は20万人(主催者発表)を集めた3月のデモをピークに下降気味で、今回の予想人数は1万人(同)と控えめだ。
新北市に建設中の第4原発は、安全性などをめぐり長年議論が繰り返されてきた。建設計画は大幅に遅れており、2011年の福島第1原発事故で反原発世論が拡大、政府は建設続行可否を公民(=住民)投票にかける方針を決めている。
公民投票は成立要件が非常に厳しいため、政府のねらいは建設推進にお墨付きを与えることにあると見られるが、3月9日のデモには芸能人なども多く参加、反原発の気運は社会全体に広がったように見えた。各種世論調査では依然として建設反対が圧倒的だ。
だが、それが実際の投票率に結びつくかは未知数で、反対派の野党民進党は「(建設地から遠い)中南部では一向に関心が高まらない」とぼやく。民進党は公民投票を正面から迎え撃つ戦略を変更し即刻建設中止を主張しているが、議会多数派の与党国民党の支持で投票は年内にも実施される見通しだ。
「フィリピンたたき」で憂さ晴らしする台湾人、相手が日本ならこれほど怒りはしない
16日、台湾文化大学の蔡教授は、台湾漁民射殺事件によるフィリピンへの激しい怒りは台湾人が抱いている挫折感の裏返しだと指摘した。資料写真。
2013年5月16日、台湾文化大学の蔡[王韋](ツァイ・ウェイ)教授は、台湾漁民射殺事件で台湾人が示したフィリピンへの激しい怒りは台湾人が国際社会や台湾当局に抱いている挫折感の裏返しだと指摘した。台湾のETtoday新聞雲が伝えた。
今回の事件発生後に見せた馬英九(マー・インジウ)政権の対応に批判が集中している。台湾外交部の林永楽(リン・ヨンラー)部長はフィリピン擁護の姿勢から「翻訳機」と呼ばれ、弱腰の態度に非難が殺到した。馬英九総統も当初の態度とは一変し、フィリピンに対し11項目の制裁措置を掲げ、謝罪や賠償を要求するなど強気の姿勢を示したが、その声も日増しにトーンダウンしている。
だが、蔡教授はフィリピン政府に対する台湾当局の要求について、「正当性があり、理にかなったものだ」と評価。たとえ相手方の出方が遅く、納得のいく対応でなかったとしても、それを理由に台湾当局を責めるべきではないと主張する。フィリピンに対する台湾人の過度の憎しみや怒りは、「自分たちよりも弱いと思っているフィリピン人を利用した『憂さ晴らし』にすぎない」と蔡教授。過去に「アジア4小龍(経済発展を遂げた台湾、香港、韓国、シンガポールを指す)」と呼ばれた台湾も、今では他の国に追い越されてしまった。「自分たちが優越感に浸れると勝手に思い込んでいた相手・フィリピンが強硬姿勢に出ることに、台湾人は耐えられない」と指摘する。
「もし、今回の相手が日本だったら、人も政府も同じ態度をとるだろうか?」と蔡教授。「台湾人はただ憂さ晴らしをしているだけであり、過度に感情的になっても物事は解決しない。もっと理性的な態度で応ずるべきだ」と語った。
台湾人がルールを守る理由、「マナーのインフラ」が社会を変えた
16日、台湾紙・旺報は記事「台湾人がルールを守る理由」を掲載した。「マナーのインフラ」が台湾人を変えたと評している。写真は台北市内の地下鉄駅。
2013年5月16日、台湾紙・旺報は記事「台湾人がルールを守る理由」を掲載した。
20歳すぎの男性・朱くんと一緒に出掛けたときのこと。雨が降ってきたので慌てて地下鉄の入り口に駆け込んだ。ところが朱くんは雨にも構わず外でタバコを吸っている。中で吸えばいいじゃないと言うと、捕まってしまうからとの答えだった。
実は台湾には公共空間でのタバコの喫煙を禁じる法律があるのだとか。いや、似たような法律なら中国本土にだっていくらでもあるが、本当に罰金を取られたという話は聞いたことがない。夜だしどうせ誰も見張っているはずもないのだが、それでも朱くんは入ろうとはしない。監視カメラもあるし、市民に通報されるかもしれないからという。実は以前に一度、罰金を取られたことがあるという。
台湾の友人に聞くと、20年前は台湾もこんなにちゃんとルールが守られていなかった。この間の変化は政府の啓蒙活動、それに「マナーのインフラ」が整備された結果だ。台湾ではあちこちにタバコを吸ってはいけない、公共空間で電話してはいけないなどなどの注意書きが書かれている。
加えて公共空間でタバコを吸う人を一般市民が摘発すると、その摘発者が罰金の一部をもらえるという制度もある。年100万台湾ドル(約340万円)以上も稼ぐ摘発の達人もいるのだとか。こうした制度が台湾人にルールを守らせる理由となっている。