これはあまり良い話ではありませんが、その会社での問題社員に関する相談を受けることがあります。
内容としては、「仕事ができない」という能力的な問題と、「仕事をしない」という取り組み姿勢や仕事観、責任感にかかわるようなものの、おおむね2つに集約されます。
問題があると言われているご本人からお話を聞くこともありますが、そう言われても仕方がないと思うことも、周りがもう少しフォローしても良いのではないかと思うことも、どちらの場合もあります。
こういう時に、経営者なども含めてその人の上司にあたる人が必ず言うのは、「あの人がいなくても仕事は回る」ということです。上司から見れば、「役に立っていない」「貢献していない」という見方でしょうから、そういう話になるのは、ある意味仕方がないでしょう。
こういう評価をされてしまうと、それがいつかはともかく、結局は退職してしまうようなことが多いです。
ただ、実際にその人が辞めてしまった後で、初めに言っていた通りに仕事が回っているかというと、意外とそうでない場合が多いように思います。現場を見ていての私の感覚では、仕事上の支障が出た場合とそうでない場合の割合は半々くらいか、もしくはうまく回っていないケースの方が多いのはないでしょうか。
これはある会社であったことですが、明るいムードメーカーで、社内の親睦イベントなどではいつも中心的な役割であるにもかかわらず、仕事のパフォーマンスがあまり思わしくないという男性社員がいました。昔で言えば、宴会部長のような位置づけになるのでしょう。
どんなに性格がよくても、仕事ができなくては話にならないということで、その男性社員の上司はかなり厳しく指導したようですが、なかなか上司が思うようには育たなかったようです。
本人も、毎日怒られてばかりではだんだん会社に嫌気がさしてしまったようで、結局は退職することとなってしまいました。上司は、「残念だけど、本人の意志だから仕方がないし、仕事上の影響はほとんどない」と言っていました。
しかし、彼が辞めてしまった後の会社では、雰囲気の明るさが何となく減り、親睦イベントはいまいち盛り上がらなくなり、特に若手社員たちからの会社への不満が増え、そこから辞めてしまう者が少しずつ増え始めました。
後から話を聞くと、辞めてしまった男性社員は、実は自分の後輩たちから裏ではいろいろ相談されていたようで、後輩たちを励ましたり諭したり、食事会や飲み会、有志のレクレーションなどでコミュニケーションを取ったり、みんなが前向きに働けるようにといろいろ気を遣っていたようでした。周りの人たちには、「自分も仕事は全然できないけど、頑張れば何とかなるからみんなも頑張ろう」などと言っていたようです。
結局は自分自身の気持ちが切れてしまい、辞めてしまったわけですが、周りの後輩たちからすれば、「あんなに前向きに頑張ろうとしていた人を会社は退職に追い込んだ」という捉え方になってしまったようです。
会社や上司が知らないところで、実は大きな役割を担っていたことに気づかなかったために、広い意味での仕事上の支障につながってしまったということです。
組織に属していれば、そのほとんどの人が何らかの役割を担っていると考えることが自然であり、一見すると、「役に立っていない」「貢献していない」と見える人であっても、それは上司の価値観に基づく一方的な見方であることを忘れてはなりません。
「あの人がいなくても仕事は回る」が本当なのか、あらためて注意して見直す必要があると思います。
(ユニティ・サポート小笠原隆夫)