かつては大勢の会葬者が訪れる葬儀が一般的だったが、近年は「家族葬」「直葬」と呼ばれる低価格・小規模な葬儀が全国的に広がっている。「安い」「アットホームでよかった」という具体的なメリットを挙げる人や、「親族からみすぼらしい葬儀をするなと責められた」や「いつまでも自宅に弔問客がひっきりなしになる」というデメリットを語る人がいるが、より深刻なのは遺族の「心」への影響だ。ライターの池田道大氏が、格安葬儀経験者の声をレポートする。
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千葉県在住のAさん(55)が「身勝手な話ですが……」と切り出す。
「認知症の末に父が亡くなって解放された気になり、5万円ほどの最も安い直葬にしました。気持ちの整理はついていたはずですが、祭壇も供花もないなか作業が淡々と続き、火葬の際は“本当にこれでよかったのか”と胸が苦しくなりました。正直、今も心が落ち着きません」(Aさん)
同じ直葬でも都内在住のBさん(52)は晴れやかだ。
「経済的な理由で母を直葬しましたが、葬儀社の助言もあり“納棺の儀”を追加しました。納棺師が母の亡骸を布団に包んで死化粧をし、網笠や草鞋を収めて荼毘に付しました。火葬の際はさすがに辛かったですが、旅支度を整えたおかげで心置きなく、母をおくることができました」(Bさん)
ほんのわずかな違いで受け取り方はまるで異なる。
葬儀ジャーナリストの碑文谷創氏が語る。
「葬儀で本当に大切なのは、価格や形式でなく、死者の尊厳を尊重し、死者と対面して“きちんとおくる”ことです。葬儀は弔いを通じて、死者との関係を結ぶ場であることを忘れてはなりません」
※SAPIO2015年10月号