長崎市で長崎電気軌道の路面電車が脱線した事故(11日)から25日で2週間がたつ。時速約10キロと低速で交差点のカーブを走行中に起きた事故。同じカーブで8年前にも2回脱線しており、国の運輸安全委員会が鉄道事故調査官を派遣して調べているが原因は分からないまま。住宅地と中心部を結ぶ生活の足は一部区間で運休が続いており、復旧のめども立っていない。8年前は運行再開に約2カ月かかっており、今回も長期化する恐れがある。
長崎県警長崎署などによると、事故は11日午後9時半ごろ、同市桶屋(おけや)町の公会堂前交差点で起きた。時速約10キロで右折中、1両編成の後輪が脱線した。車体後部には二つの車軸があり、計四つの車輪が付いているが、それらすべてがレールから脱線していた。運転士1人と乗客4人にけがはなかった。
長崎電気軌道によると、現場のレールは8月上旬、車両は10月上旬にそれぞれ定期点検したが、異常はなかった。同じ場所では2007年5月19日と同24日、相次いで脱線事故が起きており、2回目に脱線したのは今回と同一の車両だった。運輸安全委は「3度も脱線が繰り返されるのは特異」として、鉄道事故調査官が今月12、13日、長崎市でレールや車両を確認するなど、調査を続けている。
07年の事故では、摩耗によりレール幅が基準より大きくなっていたことが1回目の脱線につながった。2回目については、国の航空・鉄道事故調査委員会(運輸安全委の前身)が「1回目の事故の後、レールの補修に不適切な部分があり、横圧(外向きの力)が大きくなった」などと指摘した。
当時、約2カ月の運休を余儀なくされた長崎電気軌道は事故後、レールの保守を徹底するなど再発防止に努めてきた。さらに現場のカーブでは、制限速度を5キロ下回る時速10キロに抑えるようにしており、今回脱線した電車も同様だった。
鉄道事故に詳しい日本大の綱島均教授(鉄道工学)によると、カーブを走る電車には横圧と、下向きの力(輪重)が加わっており、横圧が大きくなると脱線のリスクが増す。横圧は遠心力や摩擦力などの影響を受けるが、今回のような低速走行時は遠心力が小さい。このため、遠心力以外の要因で横圧が増したとみられ、綱島教授は「レールや車輪のさび、摩耗、車体の加重バランス不良など複合的な要因が考えられる」と指摘した。