観光客にわく京都で、おみやげの定番といえば生八つ橋。その代表格「おたべ」を作る菓子メーカーが今年、商品名と同じだった社名を変更した。創業50年の有名ブランド、なんで変えはったんどす?
観光客が行き交う京都・祇園の花見小路通。洋菓子店「ぎをんさかい」のショーケースには、色とりどりのケーキが並ぶ。2階には14席のカフェ。ここは生八つ橋「おたべ」のメーカーが運営する店だが、訪れる客の多くは知らない。
4月、社名は「美十(びじゅう)」(京都市南区)に変わった。年商68億円。生八つ橋の売り上げはやや下降気味で全体の3割以下。2008年発売のバウムクーヘン「京ばあむ」など洋菓子が2割近くに伸びる。他社ブランドの生産も請け負い、全体では5割を超える。
おたべは創業翌年の1966年に発売。八つ橋の生産では後発組だったため、老舗がひしめく京都には出店できず、1号店は大津市にあったレジャー施設「紅葉パラダイス」に。当時は珍しかった生八つ橋の食感や京都らしいネーミングで人気商品に成長し、3年後には社名も同じにした。
おたべのヒット当初から会社の将来を見据え、和菓子にとどまらない「総合菓子メーカー」を目標に掲げた。80年代後半から、有力な他社ブランドの洋菓子の生産を請け負う事業を強化。91年に東京、09年に大阪に進出した店舗は洋菓子主体の品ぞろえにした。
マーケティング部の松村保マネジャー(42)は「後発だから積極的にチャレンジできた。その結果、会社の事業形態と和菓子のイメージが合わなくなった」と社名変更の背景を語る。
「あえて変える必要があるのか」「美十って何?」。社名変更に驚く社員から、そんな声も上がった。聞き慣れない名に、電話をかけてきた取引先は「おたべさんじゃないんですか?」。今シーズンの就職説明会では、ブースの看板に「旧おたべ」と添えた。