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台湾情勢、風雲急・・・中国政府「和すれば双方とも得」と強調

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台湾情勢、風雲急・・・中国政府「和すれば双方とも得」と強調

中国政府・国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は26日の記者会見で、台湾で馬英九政権が進めてきた大陸側とのサービス貿易協定の締結が、学生らの猛反対で挫折したことについて、「和すれば双方とも得」などと、台湾側の姿勢の再変更を望む考えを示した。

 中国政府は李登輝、陳水扁と1988年から2008年まで続いた「本省人(第二次世界大戦終了以前からの台湾住民とその子孫」政権を、「本質的に独立志向」として警戒。08年に国民党で外省人の馬英九総統(香港生まれで本籍は湖南省)が誕生すると、経済面で恩恵を与えることなどで、同政権を援護する立場をとり続けた。

 馬英九政権は発足当初、景気の回復などで高い支持率を得たが、09年に台風による大被害が出た際には、被災地救援に不手際が目立ったなどで支持率が低落。2012年の総統選は得票51.6%で当選したが、支持率は再び低落し、2013年秋からは10%に満たない状態が続いている。

 中国側は、馬英九政権の支持率が落ちても、「大陸との経済交流」という“ごちそう”を与え続けて、政権維持を応援してきた面がある。しかし、サービス貿易協定では、「交流の度合いを進め過ぎて、台湾にとって危険」との意見が盛り上がった。しかも、馬英九政権にとってサービス貿易協定と同様に大きな政治課題になっていた原発推進と合わせて、政治の手法が「民主の制度と精神を踏みにじっている」と、政権のさらに本質部分での批判まで高まった。

 中国大陸側にとって「サービス貿易協定の挫折」は、従来からの「馬英九政権応援の手法」が通じなくなったことも意味するだけに、対応に苦慮せざるをえない状況だ。

 26日の記者会見で馬報道官は「(台湾海峡)両岸の経済協力を推進することは、いずれも両岸の同胞の福祉、とくに台湾同胞の現実的な利益のためだ」と述べ、「未来に目を向け、皆が『和すれば双方ともに利、分かてば双方共に害』と認めている」と主張した。

 サービス貿易協定について台湾で強い反発が発生したことについて、馬報道官は「台湾社会がサービス貿易協定について持つ疑惑は、(本来)存在しないものだ」と主張。例として「大陸の労働者が大挙して台湾に移るとか、4.8万元を投資すれば台湾に移民できるという規則はない」、「これらの心配は、皆が真剣に事実を聞けば、解消するべきものだ」の考えを示した。

 さらに、「大陸側は協定についてすべきことをした。なぜ反対が出たのか? われわれは双方の多くの世論に注意した。一部の国際世論を含めて、原因は台湾内部に求めるべきだとするものだ」と述べた。名指しはしなかったが、サービス貿易協定の“挫折”は「最大野党の民進党の妨害による」との考えを示したことになる。

 馬報道官は続けて「2008年以前の、両岸が緊張し対抗する局面に戻りたいと願う人はいないだろう」、「両岸関係の平和発展と進展が妨害を受けることを見たい人はいないだろう」と主張した。

 「サービス貿易協定に反対する台湾のミュージシャンなどの作品が大陸側のメディアやインターネットから締め出された」とする見方については「公の立場にいる人物の言動が、社会の民意による検査を受けるのは自然なことだ」と述べた。

 大陸部当局がメディアやインターネットの統制を行っているのは周知のことであり、該当するコンテンツが見当たらない状態になったことは「民意の名義による当局の動きがあった」と認めたとも解釈できる回答だ。

 共産党機関紙の人民日報の系列である大陸紙「環球時報」が「大陸側は、台湾と(これまでに双方の行政当局が合意した内容を修正した)第二次サービス貿易協定の交渉を行う立場にない。台湾は(これまでの行政当局による合意をそのまま)受け入れるか、合意を全面撤回するかのいずれかを選ばねばならないと表明すべきだ」との論説を発表したことについては、「大陸の世論は多元化しており、官側メディアが簡単に世論の方向性を導くと考えることは合理的でない」と述べた。
 
 ただしその直後に「大陸の台湾に対する政策方針は、大陸で極めて高い民意の支持を得ている」と表明した。

**********

◆解説◆
 馬報道官は、これまで進めてきた「台湾に経済的恩恵を与えることによって、大陸との関係を親密にした方が得と、台湾側に納得させる」手法を改めて説いたことになる。しかし、サービス貿易協定では、多くの台湾人が「大企業にのみ有利。中小企業を含めて考えれば、中長期的に見て台湾の産業に深刻な悪影響を及ぼす」と判断した。

 馬英九政権と中国大陸側の合意では、コンピュータ関連、リース、広告や調査などの商業サービス、清掃業、印刷業、宅配便、電信企業、建築業、流通販売業、環境関連産業、医療、観光業、ホテル業、飲食業、旅行業、娯楽・文化・スポーツ関連産業、運送業、倉庫業、美容業などについて大陸資本に門戸を開くことになっていた。

 大陸側もほぼ同様に台湾資本に門戸を開く条項が設けられているが、人口や社会全体の規模を考えれば、台湾側の受ける影響が圧倒的に大きいことは確実だ。

 大陸資本が大挙して台湾に押し寄せれば、現在は具体的な取り決めが確定していなとしても、大陸から大量の「職員」が台湾に常住することになるのは必然的な流れだ。家族の呼び寄せも可能になると考えるのが自然だ。馬英九政権の発足以来、中国大陸部住民の訪台を容易にする措置が続いてきたことも、同協定の反対派が「職員自身だけでなく家族も台湾に移り住むことになる」、「大量の大陸住民の台湾常住化は台湾の大陸化を招くもの」と考える理由だ。

 馬報道官は、「協定には書かれていない」との「事実」を説明したが、「協定がもたらすと考えられるもの」について、協定反対派の不安を払拭しようとする発言はみられなかった。

 台湾が民主制度を採用した以上、重大な政策方針については世論が2分されることになるのは、必然と考えてよい。

 馬英九政権は原発建設、大陸とのサービス貿易協定と複数の重要課題をほぼ同時期に抱え込むことになった。いずれの問題についても反対派は当初、個別の政策を批判していたが、現在は馬英九総統の目的達成の「手法」そのものを強く問題視するようになった。

 情報公開が不十分である上に、原発建設については「国民投票を行う」と言っておきながら長期間にわたって実施していないこと、サービス貿易協定については、「立法院(国会)で条文ごとに審議。協定全体の一括採決は行わない」と言いながら、審議を早急に打ち切って、事実上の「可決」に持ち込もうとしたことなどだ。

 しかし馬報道官は、サービス貿易協定に反対する人を、あたかも「妨害者=悪者」のように表現した。考えの異なる人を、それだけで「悪者」のように扱うのは、民主主義にはあまりなじまない発想だ。

 独裁体制とは異なり、民主主義にはたしかに「効率の悪い」面がある。合意の形成に至るまでのプロセスがどうしても複雑になるからだ。明文化した規則だけでなく、「民主主義の精神」にもとづく慣行の確立と尊重も必要になる。

 台湾の人々は長期にわたる独裁・恐怖政治という「黒い歴史」を体験した上で、いまだ問題あるとはいえ「民主制度」を獲得した。そして馬英九総統に反対する人々は、「そもそも考え方や政権運営が民主的でない」という点に批判の焦点を絞りつつある。

 つまり馬報道官の言い方は、「何がなんでも馬英九支持」という人に満足感を与える可能性はあるが、反対の立場の人については「中国は台湾のことを少しも分かっていない」と、反発をさらに強くする効果しかもたないことになる。

 中国共産党は、台湾の“祖国復帰”を「究極の目標」にしている。この問題の最も直接の当事者は台湾の人々だ。したがって、「台湾の人の心」に従って最終的な決着をつけるはずの問題だ。

 とすれば、中国大陸側としては、少しでも多くの台湾の人々に、「中国側(中国共産党)は、台湾の事情、台湾人の心を理解しているようだ」、「統一の訴えを、もう一度考えてみてもよいのでは」と思わせる言動を積み重ねていくしかない。しかし現状では「台湾人の神経を逆なでしかねない場合も目立つ」としか言いようがない。

 中国大陸側が馬英九政権を「応援」するために採用した手法は、大陸部で1990年代から実施して、共産党政権への不信や不安を解消した方法の「台湾向けバージョン」と解釈することができる。すなわち、経済を活性化することにより、多くの人々に「豊かになりつつある。豊かになった」と実感させることで、「この体制を続けていってよい」と判断させる手法だ。

 しかし、中国共産党政権の本質と、いわゆる西側体制には本質的な違いがある。中国共産党政権が実効した改革開放は、共産党の協力な指導を前提にして、「経済の大幅な自由を許していく」という政策だった。

 古今東西の共産主義政党が採用した政策として極めて大胆で成功したことは事実だが、共産党が経済活動の本質的な自由、まして思想や言論の自由について「開放」したわけではない。言ってみれば「手綱を絞ることは控える。手綱は大いに緩めたが、手綱そのものは共産党がしっかりと握りしめている」という意味での改革開放だった。

 それに対して西側世界の考え方は、「財産権を含め、経済活動は本来自由。思想や言論も本来は自由。ただし、すべてを野放しにしたのでは、社会が成立しない。したがって、必要に応じて制限を設ける」だ。つまり、考え方の「順番」がまったく異なる。

 台湾社会は蒋政権のもと、大陸側の共産党政権と同じように「自由を奪われる」歴史を経験した。ある面では、大陸側住民以上の「苦難」を味わったとも言える。

 その台湾に対して、「今、目の前にある利益」だけを示したのでは、不信感をつのらせる人が続出するのは必然の成りゆきだ。


 中国では1989年の、いわゆる(第2次)天安門事件で、共産党に対する信頼が大きく低下することになった。その後、経済の高度成長を実現することで共産党が政権を握る体制について、多くの人をかなり長期に渡って納得させることに成功した。

 ここで、中国大陸と台湾が統一することの是非は語らない。しかし、大陸側が統一に向けて歩を進めたいなら、台湾の人々に納得してもらう言動が不可欠のはずだ。信義の問題も本質的だ。大陸側の言動には「相手を力づくで押さえ込もう」とする発想が、どうしても見え隠れする。

 台湾の将来については、予断を許さない面が多い。しかしその点は、大陸も同様だ。「経済成長一辺倒」の手法は、国内面では「度を越した格差」、「人間の生存すら危うい環境問題」、「有力者の目に余る腐敗」、国外との関係では「あまりにも強気な勢力拡張」といった問題を深刻化させている。

 共産党政権も、少なくとも国内については多くの問題が山積していることを認めている。もちろん、台湾人も熟知している。経済面だけをとりわけ強調した対台湾政策を示しても、当事者である台湾人の間に不信の念が高まるのは、当然の成り行きだ。

 中国大陸と台湾の問題について、台湾側で「中国とは別の国」と主張する人々は、「中国から移り住んで来た人が多いのは事実だが、日本の統治により初めて近代的な台湾が形成された。中国は台湾の近代化に、なんら寄与していない」と主張する。

 統一を主張する人々は「もともと中国の一部」と主張した上で、「中華社会の一部。統一されて当然」と主張する。

 つまり、事実の認定については合致する部分もあるが、結論は正反対という現象だ。しかし考えてみれば、人と人、グループとグループの関係で、同様の構図が発生する場合は珍しくない。

 台湾との問題において、いかに円滑に自己の意思を実現していけるのか。台湾の人々にとっては極めて不愉快な言い方になるのかもしれないが、中国大陸側が示す「手腕」は、中国にどのように向き合っていくのか、日本にとって大きな判断材料になるはずだ。

台湾問題で身動きできない中国

英エコノミスト誌は、中国と台湾の政府代表が1949年以来初めて公式に会談したが、中国は将来の再統一にまだ不安を感じている、と述べています。

 すなわち、2月11日、台湾の王郁キ(王へんに奇)・行政院大陸委員会主任委員が南京を訪れ、中国国務院台湾事務弁公室の張志軍主任と会談した。公式の中台閣僚級会談は、1949年の中台分断後初めてのことだ。

 東シナ海や南シナ海が領海問題で揺れる中、かつて地域で最もギクシャクしていた中台関係は、馬政権が誕生した2008年以降、比較的平穏に推移してきた。今回の会談はこの安定を保つことが狙いだ。加えて、台湾の与党・国民党が今年の地方選挙や2016年の大統領選で敗北する可能性があることから、中国側には国民党政権の下で改善された中台関係を今の内に強化したい思惑があった。

 もっとも、会談自体は象徴的色彩が強い。中台は既に準政府機関を介して貿易、直行便の運航、観光等で協力の実績を挙げているが、60年間敵対関係が続いてきた中台の相互信頼は弱い。しかし、シンボリズムも実質の一部であり、今回の会談で安定感がさらに強まるのは間違いない。

 これまで中台は正式の会談を避けてきた。中国の指導者は台湾政府の正当化につながるような行動は絶対にとりたくない。他方、2008年以来、対中関与を主張してきた馬英九も、台湾経済にプラスになる対中関係を維持する一方で、中国に身売りしたと見られてはならず、難しい舵取りを強いられてきた。

 馬の対中関与政策は台湾経済の活性化に大いに役立ち、大陸からの訪問者は2008年の30万人から2013年の300万人に激増、中台貿易も50%以上拡大したが、内政面の失敗や不景気もあって、馬政権への支持率は10%前後と低迷している。しかも民進党が政権を奪還しようと待ち構えている。民進党が2016年の大統領選で勝てば、台湾は中国に対してより敵対的な姿勢をとることになろう。

 そうした中、習近平は昨年10月のAPEC首脳会議で、台湾問題をいつまでも先送りするわけには行かないと述べ、中国の強硬姿勢が台湾にも向かいかねないとの懸念を呼んだ。

 しかし、台湾への強硬姿勢はこれまでは逆効果しか生んでいない。1996年の台湾初の民主選挙の前、中国は台湾近海にミサイルを撃ち込んで威嚇したが、台湾の有権者はかえって熱烈な反中派を主席に選出した。

 要するに、中国は身動きができない。強く出れば台湾は反発するが、強く出なければ、台湾はいっそう明確に独自のアイデンティティーを打ち出すことになる。会談で張志軍・中国代表は、「正しい道を歩んで行けば、目的地は遠くない」と言ったが、問題は双方の考える目的地が同じではないことだ。だから、中国は今のところはシンボリズムで間に合わせるしかない、と述べています。

* * *

 論説末尾の「中国は身動きできない」という情勢判断が、おそらくは、もっとも正鵠を射ているものでしょう。

 中国としては、統一の方向に一歩でも前進させたいのでしょう。それは、ここでも引用されている、昨年APECにおける習近平の発言からも明らかです。しかし、国民党政権としては、一歩でも統一に近づいたという印象を与えることは、来る国内選挙では自殺行為になります。

 他方、統一の方向に一歩も進まないままで、中台接触のレベルを上げることは、台湾の存在を法的に認めることであり、中国が従来最も避けて来た所です。

 その意味で、「中国は身動きできない」と言う判断は正しいと思います。残る手段としては、中台経済社会の依存度を高め、「熟柿の落ちるのを待つ」と言う従来の政策を続ける他はありませんが、中国経済自体の見通しに翳りが出て来ている状況では、台湾の方が経済パートナーの多様化を求める状況ともなっています。

 あとは一か八かの武力行使ですが、常識で考えても成功の可能性は小さく、たとえ短期間成功しても、それは中米全面対決の引き金になり、それほどの冒険に打って出る可能性は少ないのでしょう。

 結局、中国に出来ることは、国民党政権時代に築いた台湾内、あるいは中国在留の台湾人の間における中国の影響力を行使して、次の選挙における国民党の勝利を期待することであり、現在の中台接触、APECにおける首脳の接触などを通じて、中国についての好印象を台湾に植え付け、選挙戦の一助とすることしかないのでしょう。

 ただ、それをすれば、台湾の現状承認への一歩であるとの印象を与えるだけでなく、中国自身が台湾の民主主義のゲームに自ら参加することになり、そして、その上に選挙に負ければアブハチ取らずとなる恐れもあります。

中台関係の進展に焦る習近平?中国が強く求める「和平協定」


 ペンシルベニア州立大学名誉教授の張旭成(P.チャン)が、習近平下の中国は、胡錦濤時代に比べて、より強力かつ、より迅速に台湾との「和平協定」締結を進めようとしている、と2月10日付タイペイ・タイムズで述べています。

 すなわち、習近平が党主席になってから中国の対台湾政策は変わりつつある。胡錦濤は米国との軍事的対決を避け、武力で台湾を脅迫することを控えた。胡錦濤が側近に語った言葉として伝えられているのは、台湾を軍事的に征服することに比べれば、これを「買収」することははるかにたやすく、またより安上がりである、ということである。

 その結果、特に、経済、メディア、人的往来などを通じて、中国は台湾への浸透を図ってきた。2009年に締結されたECFA(経済協力枠組み協定)に基づき、18の協定が締結された。現在1週間に台湾と中国の間を直航する飛行機の便数は670である。台湾の観光地は、中国からの観光客たちであふれている。中でも台湾の企業家たちは「両岸の和解」という中国の主張の強固な支持者たちとなった。2012年の総統選挙の際には、何万人という台湾企業家たちが特別のチャーター便で勤務地の中国大陸から台湾に帰国し、国民党に投票した。メディアの分野では、中国は取引のある台湾実業家たちに働きかけて、台湾の新聞やテレビ局を買収させた。これらのメディアは中国から資金援助を受けながら、プロパガンダ情報を流している。

 習近平になってからは、台湾への基本的アプローチを前任者より受け継ぎつつも、より強力に、またより迅速に台湾を統一するという目標を追求している。中国は馬政権に強い圧力をかけて、中台間の政治対話や和平協定締結に向かわせようとしている。馬政権はこれまでのところ、「まず経済、その後、政治」との対応をとっている。

 昨年10月のAPECの場(バリ島)で習近平は馬英九の特使に対し、焦りの気持ちを示し、中台間は「一歩一歩解決に向かわねばならず、次世代に解決を引き延ばすべきではない」と強調した。経済面では、サービス貿易協定は台湾において批准されていない。北京から見ればこの協定は台湾統一への政治的一歩になるものである。この協定は、香港で見られるように、中国のエージェントたちが台湾で生活し、仕事をするための法的な庇護を提供するものだ。

 本年11月の地方選挙、2016年の総統選挙において、台湾の選挙民たちが国民党の候補たちを拒否するのではないかと中国は心配している。

 馬英九としては本年秋の北京におけるAPECサミットに、条件が整えば参加したい、と公言している。ただし、多くの台湾の専門家たちは、これまでの5年間に両岸関係が劇的に進展したとは言え、主権をめぐる問題やその他カギとなる政治問題についての中台の立場の違いを考えれば、馬の本年秋の訪中については、その可能性はありそうもない、と考えている、と述べています。

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 張旭成は、民進党陳水扁政権下で国家安全会議副秘書長を務めた人物です。論説からは、2月11日から14日に行われた、中台間の初の閣僚級会談の背景も読み取ることが出来ます。

 中国側としては、これまで比較的容易であった台湾との経済関係強化の局面を終わらせ、政治対話、政治協議の局面に早く移行したいところです。あと2年間強の任期をもつ馬英九政権の間に、台湾との関係を後退できないところまで推し進めたいと考えているに違いありません。

 特に習近平体制になってから、これまでの中台関係の進み具合に焦りの気持ちが出てきているように見られます。台湾海峡を隔てた福建省で長く地方幹部として仕事をした習近平としては、台湾問題で何らかの成果をあげたいと考えているふしがあります。

 他方、馬政権としては、引き続き、経済関係を中心に中国との関係を強化し、政治分野については条件付きで対話に応じるという姿勢ですが、支持率の低迷状況から何とか脱却して、今後の選挙に臨みたいというところであろう。

 台湾側行政院大陸委員会主任(王郁キ【王へんに奇】)と中国側国務院台湾弁公室主任委員(張志軍)の会談については、11日に南京で行われた会談後の新聞発表に、以下のような注目すべき点が含まれています。

 1)会談内容については、新聞発表にとどめ、覚書(コミュニケ)は発出しない。

 2)今後、中台間の事務レベルでのコミュニケーションのパイプを強化する。

 3)中台間の出先連絡事務所の相互設置の方策を検討する。

 4)「92年コンセンサス」(一つの中国を原則とするが、その解釈は各々に委ねる)を両岸対話の基礎とする。

 5)馬総統のAPEC北京サミットの参加可能性については話し合われなかった。

 これを見る限りでは、全体として予想を大きく超える中身は見当たりません。ただ、王と張が互いに相手を「主委」、「主任」と呼び、呼称について一歩踏み込んだ形をとり、王が南京中山陵での献花にあたり、「中華民国」という、これまで中国においてタブーとされてきた国名に言及したことは注目される。

 ただし、依然として、今後とも最も強い関心の的となるのは本年10月のAPECサミット(北京)の際に馬英九総統がこれに参加し、馬=習会談がおこなわれるか否かという点でしょう。もし馬英九がこれに参加するとして、その際、その肩書きを何とするか、同床異夢の「92年コンセンサス」のままで、台湾の総統の訪中が可能か、など政治協議には多くの難問があり、台湾にとってのみならず、中国にとっても妥協しすぎた場合のリスクを覚悟せざるを得ないでしょう。

 また、中台間の「和平協定」とは、突き詰めれば、米国の「台湾関係法」により、台湾が購入している兵器の購入を停止することに帰着すると思われます。その意味でも中台間の「政治協議」の成り行きは米国、日本にとって格別の要注意事項であることに変りはありません。
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台湾の学生はなぜ立法院を占拠したの? 原因となった「サービス貿易協定」とは

 3月18日の夜、台湾の国会にあたる立法院の議場を、数百人もの学生たちが占拠しました。23日夜にはデモ隊が行政院(内閣に相当)にも突入。これは治安当局に強制排除されましたが、立法院の占拠はいまも続いています。台湾史上でも類を見ないデモ運動の原因となったのは、昨年6月に中国と台湾で調印された「サービス貿易協定」。この協定に反対の意を示す学生たちが、今回の行動を起こしたのです。なぜ学生たちは、ここまでの反発を見せたのでしょうか。
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[サービス貿易協定の強行採決に反発]

 サービス貿易協定とは、中国が80分野、台湾が64分野の市場を解放しようというものです。昨年の調印を経て、3月17日より台湾国内での最終的な同意を得る審議が立法院で行われていました。しかし、この協定は「台湾にとって不利益な条約」と見る向きが強く、最大野党の民主進歩党を中心に反発の動きが出ていました。

台湾の与党である中国国民党は、野党の意見には応じず、「時間切れ」として審議を一方的に打ち切り。十分に話し合うことなく、強引に協定の同意を進めようとしました。これに学生が抗議し、一連の“占拠事件”へと至ったのです。
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[台湾にとって不利?な協定]

 サービス貿易協定が台湾にとって不利益と考えられる理由はいくつかありますが、その最たるものの一つに「中小企業への打撃」があります。市場が開放されれば、中国企業や労働者が大量に流入してくると考えられます。巨大な資本を持つ中国企業が参入すると、台湾の既存企業、特に中小企業は厳しい状況に置かれ、また賃金の安い中国人労働者が増えれば、台湾の人々の労働環境はマイナスの影響を受けかねません。
 
 台湾の中小企業が淘汰され、賃金の安い中国人労働者が入ってくれば、学生たちの就職先が少なくなる可能性が高まります。その危機意識が要因となって、これほどの大きな運動が生まれたのでしょう。
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[中国との「統一」で不安視する声も]

 さらに中国と台湾は、統一するか否かで対立してきた関係。もし協定が同意され、中国企業の進出が著しくなれば、中国の望む統一が近づくことも考えられます。さらに、今回の協定では出版・印刷の市場も解放されるため、中国の出版業が一挙に台湾へ進出すると不安視する声があります。そうなった場合、台湾では「中国側による、統一へ向けた言論統制が行われるのでは?」という不安の声も上がっていました。これらも、今回の過激な運動に至った要素でしょう。
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 そもそもこの協定は、昨年6月の調印から「十分な議論を行わずに決めた密室協定」として、野党に批判されていました。一方の与党、中国国民党は、批判の高まる中で審議が遅れることを嫌って強行採決に出ましたが、余計に状況を悪化させてしまったともいえます。

 台湾の馬英九総統は、事態の打開に向けて学生側の代表者と会談する意向を固めており、学生側もそれに応じる構えです。台湾で起きた前代未聞の学生運動は、どのような結末を迎えるのでしょうか。
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