中国共産党や習近平政権を批判して中国本土での発売を禁じられた、いわゆる“発禁書”を取り扱う香港の書店関係者5人が相次いで失踪している。ではいったい香港の書店では、どんな“発禁本”が売られているのか。
昨年2月に発売され話題を呼んだのが、『中国第一弟ソク(女偏に息) 張瀾瀾』だ。張瀾瀾は、習近平の弟の習遠平の妻である。この本では、彼女が美貌と肉体で習遠平を陥落させ、できちゃった婚で習家ロイヤルファミリーへの入場券を手に入れるまでの知略と攻防、情報戦が赤裸々に書かれている。
なかでも衝撃を呼んだのが、「張瀾瀾は、徐才厚の愛人だった」という記述である。徐才厚とは、軍制服組トップを務めた後、習近平政権で巨額収賄に問われ失脚した超大物だ。習ファミリーの一員が、習近平の政敵の愛人だったというのだから、事実とすれば驚きだが、もちろん真偽は全く不明である。
最近のヒット作は、『周恩来的秘密情感世界』。四川省生まれの政治雑誌編集者だった著者はこの本で、周恩来の若き日の日記や手紙、関係者への取材により、「周恩来は自身の性的傾向を隠すために結婚していた可能性が高い」と指摘する。
つまり、周恩来は同性愛者だったというのだ。著者の分析によれば、同性愛は毛沢東時代には「不良道徳の罪」とみなされていたため、当局は全力で「人民から好かれる総理」のイメージを守り、この情報を秘匿してきたのだという。繰り返すが、すべて真偽不明である。
関係者が相次いで拘束された「銅鑼湾書店」では、『習近平和他的六個女人(習近平と6人の女たち)』という政治ゴシップ本の発売を控えていた。内容は習近平が結婚した1985年から2002年までのあいだの彼の恋愛遍歴を書いたものだったという。
同書店の株主で作家の李波氏は、失跡する3週間前、英ガーディアン紙の取材に対し、
「あの本が市場に出回って欲しくないと思う人もいるんじゃないかと思う。彼らは書籍と関係のある人間を拘束して、本が出ないようにしているのだろう」
と自らの身の危険を予言していた。結果は見てのとおりである。
今回の事件の余波は、香港の言論の自由を脅かしている。発禁本として最大のベストセラーとなった『中国教父習近平(中国のゴッドファーザー習近平)』で、「習近平はヒトラーと同じ末路を辿る」と喝破した米国亡命中の民主活動家・余傑氏は最新作『習近平的悪夢(習近平の悪夢)』を準備中だった。ところが刊行予定だった出版社の社長が、事件後、同書の出版を断念し、同書は今後、香港ではなく台湾で出版される予定だという。
それにしても、習近平政権がこうしたゴシップ本を封じれば封じるほど、本には“不都合な真実”が書かれているのではないかと、逆にその内容に信憑性を持たせてしまっているような気もするのだが。
※週刊ポスト2016年2月5日号