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台湾の行方占う選挙 国民党・馬英九凋落で民進党にも擦り寄る中国

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【台湾の行方占う選挙 国民党・馬英九凋落で民進党にも擦り寄る中国】


11月29日、台湾で統一地方選挙(「九合一」選挙、行政院直轄市長選など9種類の選挙が行われるためこう呼ばれる)が実施される。2016年に行われる総統選挙、ひいては東アジア情勢の趨勢にも大きな影響を及ぼす重要な選挙である。無論、中国はこの選挙に注目している。

 台湾では、地域による支持政党の特徴が明確で、北部は基本的に国民党の、南部は民進党の支持基盤となっている。今回の統一地方選では、馬英九政権2期目に対する民衆の審判を仰ぐことになるが、与党である国民党に逆風が吹いており、野党が票を伸ばすと予測されている。馬英九が政権を取ってから6年が経ち、支持が下がってくるのは常のことだが、馬英九個人の支持率が低迷していることに加え、中台関係に生じている摩擦が、国民党をさらに不利な状況へ追いやっている。

 国民党の地盤であり要衝である台北市においても、国民党候補の連勝文の苦戦が予想されている。連戦・元副総統の長男であるため、世襲制のイメージがつきまとい、既存の政党や既得権益を嫌う層や若者から不人気である。連勝文側が制作したテレビ広告、「もしあなたが金持ちだったら、何をしますか? もしあなたの父親が金持ちだったら、何をしますか? もしあなたが連勝文だったら、何をしますか?」というメッセージは、実際に名士の息子であり、資産家である連にとっては、むしろマイナスの宣伝となった。

 対抗馬であり、世論調査でリードしているのは、無所属・新人の柯文哲である。柯は台湾大学の医師で、これまで政治の世界とは関係なく過ごしてきた人物である。彼が支持を集めている背景には、既存政党に対する民衆の不満がある。つまりは、民進党も、国民党に逆風が吹いているからといって、楽観的でいられる状況にはない。

 馬英九が政権を担うようになってから、中台関係は安定し、両岸の経済・人の交流は拡大した。台湾の民衆の間では、中国経済に対する依存を懸念する声が存在する一方で、中国の市場なくして台湾経済は立ち行かないという見方が広がり、中台関係の安定が重視されるようになった。ただし、後述のように、人々は中国との政治的統一を望んでいるわけでは決してない。


【「ホープ」にも「実力者」にも接触する中国】

 政権2期目(12年~)に入ると、馬英九政権の対中接近政策に拙速さが見られるようになり、中台関係の強化に対する人々の不安が募るようになった。3月に学生たちが立法院を占拠する原因となった「中台サービス貿易協定」についても、協定の内容より、馬政権の審議の進め方に対する反発が引き金となった。また、馬英九が協定の締結を急いだ理由について、14年APECにおいて馬-習会談を実現させるためだと憶測する見方もあり、それも政権に対する反発を煽ることになった。

 中国では、13年に習近平政権が発足すると、対台政策を管轄する国務院台湾事務弁公室主任に張志軍が就任した。張は、前任者の王毅(現外交部長)同様、外交官としてのキャリアを積み重ね現職に就いた。彼が今後出世するためには、前任者と同様か、それ以上の成果を生むことが求められる。

 胡錦濤は台湾の武力統一より、「独立させない」ことに重点を置いた対台方針をとることにより、中台関係を安定させようとした。「先易後難(先に易しいことを行い、後で難しいことをする)」、つまり中台の経済関係強化から始めて、後に政治問題に手をつけるという方針の前段部分は、王毅の任期期間中にほぼ達成された。

 張志軍に残されたのは、残る難しい方、政治対話を始めることである。メディアなどを用いて政治対話を求める意向を喧伝すると同時に、台湾の政治家や財界人を大陸に招き、政治対話のための攻勢を仕掛けている。

 中国にとっては、言うまでもなく、16年の総統選でも、大陸との関係を重視する国民党から指導者が選出されることが望ましい。しかし昨今の台湾内部における馬政権に対する支持率低迷を鑑みれば、16年の総統選・立法院選で政権交代が起こる可能性は無視できない。中国は、以前は独立を掲げる民進党との交流を拒絶してきたが、最近では、民進党との関係構築に布石を打っている。人気も高く、民進党の若手ホープである頼清徳・台南市長を大陸に招いたり、また張志軍が6月に訪台した際には、大陸への反発が強い南部にも赴き、民進党の実力者である陳菊・高雄市長とも会談を行った。

 ただし、民進党が独立を目指す党綱領を掲げている限り、党対党の交流は行わないという方針は変えていない。民進党が政権をとった場合に備え、民進党との間でも一定の意思疎通を図るべきだという考えがある一方、民進党に対し融和策をとりすぎると「民進党が政権をとっても、中台関係にさして悪影響はない」と台湾民衆が考えるようになってしまう危険がある。あくまで国民党が政権をとることを望む中国にとって、民進党を無視はできないが、本格的な関係構築に乗り出すことは当面ないと予想される。

 いまや、世界のどの国も、中国と武力衝突や深刻な対立を引き起こすことは望まないようになっている。台湾の独立を強く訴えた陳水扁・前総統は、アメリカから「トラブルメーカー」と見なされ、馬英九はその教訓から「三不政策(中国と統一しない、独立しない、武力行使しない)」を掲げるようになり、台湾が独立する可能性は極めて小さくなった。そして台湾経済はますます中国に依存するようになっている。

 しかし、台湾の人々の考え方は、中国側が望むように変化していない。台湾の世論調査によれば、台湾の地位について、(1)独立すべきか、(2)中国と統一すべきか、(3)現状維持すべきか、という質問に対する回答は、この十年間であまり変化しておらず、現状維持と答える人が相変わらず8割以上を占めている。

 しかし、アイデンティティに関する質問で、(1)台湾人か、(2)中国人か、(3)その両方なのか、に対する答えは、この十年で大きな変化が生じた。2000年代半ばには、(1)と(3)がほぼ同数でともに4割強であったのが、今では台湾人と答える人が60.4%、両方と答える人は32.7%、中国人と答える人はわずかに3.5%にすぎない。また、現状維持すべきという回答の中身についても、よく見ると「現状維持をしながらいずれ独立を目指す」という答えが漸増している。中国との経済関係は深化したが、台湾人としてのアイデンティティはむしろ強化されている。


張志軍の訪台に抗議する台湾の人々(GETTYIMAGES)

 6月頃から香港で「真の普通選挙」を求める運動が起こると、台湾の人々はその動向を注視したが、大陸で台湾政策を立案・研究する人々は、意外なほどその関連性に無頓着であった。香港と台湾のデモを連動させまいと、半ば意図的にそのように振る舞っている部分もあっただろうが、自信から生じる油断(ある中国知識人の言葉を借りれば「拝金主義の横行がもたらした傲慢さ、他者への理解の欠如」)がそこには垣間見えた。

 香港の一国二制度は、中国共産党にとって台湾統一を見据えたモデルでもあり、台湾の民衆にとって、香港で起こっていることは他人事で済ませられない意味を持つ。多くの台湾の人々が香港のデモを支持したのは、民主主義への共鳴のみならず、自分たちの姿をそこに重ねたからである。

 9月末に香港で大規模デモ(雨傘運動)が発生すると、中国政府もその深刻さを認識せざるを得なくなり、「香港と台湾は関係ない」という振りを続けられなくなった。習近平は、9月26日、台湾からの訪中団に対し、一国二制度による台湾統一を強調したが、習近平自身がそのような発言をしたのは、主席就任後初めてのことであった。「独立しない」ことと共に、「統一しない」を宣言している馬英九政権は、批判コメントを出さざるを得ず、さらに香港のデモに対する支持を表明した。

 その直後、APECに馬英九が参加する可能性はなくなったことが公表された。ただ、香港のデモが起こる前から、習-馬会談の実現可能性については極めて難しいと予測されており、このこと自体は中台関係にさほど大きな影響を及ぼすわけではない。むしろ、習-馬会談が実現していたとしたら、中台接近に対する懸念から、台湾の人々は統一地方選で国民党を忌避する投票行動をとったかもしれない。

 11月末の統一地方選では、国民党が席を減らすことになるだろう。結果として民進党は有利になるだろうが、その政策が支持されているというわけではない。08年の総統選で、民進党候補の蔡英文氏が敗北した原因の一つは、対中政策の曖昧さにあった。台湾の人々は、中国との統一は望んでいないが、中国との関係をこじらせ、国際的に孤立したり経済的なダメージを受けたりすることは望んでいない。

 民進党内部には、中国との関係構築を目指すべきだという声と、あくまで独立の旗を掲げ続けるべきだという声が存在し、まだ党としての方針が決まっていない。民進党にとっても、執政党として政権を預けられるという信頼を民衆から得るためには、乗り越えなければならない課題は多い。





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