民間人が一切立ち入れない山中で軍人が収穫し、ロシア産にも偽装され、日本に上陸する-。
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)トップ、許宗萬(ホ・ジョンマン)議長父子が獲得した北朝鮮産マツタケ利権の構図が関係者への取材で明らかになってきた。許一家支配を担保する源泉であった一方、制裁による輸入禁止でいつしか、在日朝鮮人商工人を縛る足かせに変じていた。(桜井紀雄、吉国在)
■「秘密資金ある」
「朝鮮総連は、全く収入がなくとも15年間は組織運営できる秘密資金がある」
朝銀信用組合の連鎖破綻後の平成14年になっても、こううそぶく幹部らの言葉を日朝関係者は鮮明に記憶している。それまで、貨客船「万景峰(マンギョンボン)号」で巨額の現金が本国に持ち出されていったとされる。
幹部の言葉とは裏腹に、債権回収のため、朝鮮学校の建物まで仮差し押さえされるほど、事態は深刻化していた。一方で、整理回収機構(RCC)による朝鮮総連の資産回収ははかどらず、600億円以上の債務が宙に浮いたままだ。
その陰で、朝銀破綻を見越した北朝鮮への駆け込み送金の見返りに、金正日(キム・ジョンイル)総書記と密約を交わし、マツタケ利権を手にしたとされる。ある在日商工人は、マツタケ利権を管理する限られた傘下企業幹部から、北朝鮮への債権について「120億円」と記された文書を見せられたという。
■忠誠の上納品
金一族の重要な資金源と位置付けられてきたマツタケは、秘密資金を扱う朝鮮労働党39号室傘下の「テフン総局」が管理している。
朝鮮総連側に販売権が移譲された後は、強制捜査された傘下企業「朝鮮特産物販売」が取引を仕切り、日本向けの包装加工法について、テフン側への技術指導も行ってきたという。
マツタケの加工・流通に掛かる経費は、朝鮮総連側の前払いが原則とされ、同社が在日商工人企業など120社余りに呼び掛け、着手金の出資を募ってきた。出資に応じた会社が日本での販売を受け持った。
マツタケが豊富に採れる北部咸鏡北道(ハムギョンブクド)の山林などは、民間人の立ち入りが禁じられ、朝鮮人民軍兵士を動員して収穫する。日本向けなのに、現場では、金一族への「忠誠の上納品」だと説明されているという。
包装加工されたマツタケは、成田や関西空港に空輸されたり、船で舞鶴や境港に運ばれ、市場に出回った。公安関係者によると、14~17年には、毎年約280~780トンが日本に輸出され、朝鮮総連側に利益をもたらした。
■本部転売で強気
だが、18年の制裁による禁輸で状況は一変する。朝鮮特産物販売は、韓国や中国、ロシアへの販路を模索したが、「いずれも失敗した」(商工人)という。
今回摘発された中国産への偽装に加え、ロシア産に偽り、ウラジオストクから鳥取港に陸揚げされたマツタケも確認されている。
制裁後も出資募集が続けられたが、着手金も支払われないケースが出たほか、渡される現物は、売りさばきにくい中国産の偽装品。「マツタケ」は商売を圧迫する重荷となっていた。
だが、宗萬氏は利権にこだわったようだ。中央本部競売問題でも、他企業を介した転売で「いつでも30~40億円を用意できる」といった強気の発言を複数の関係者が耳にしていた。
30~40億円は、39号室が北朝鮮の海外資産を売却するなどして当座で準備できるとされる額に相当し、公安関係者は、39号室側に対するマツタケ利権を念頭にした額だとみる。本部の転売では、約10億円が香港から送金されており、債務のある北朝鮮側からの出資を疑う見方も根強い。
日朝関係者はいう。「こうした利益は本来、RCCが進める債務の返済に充てられるべきものだが、隠匿されたカネの流れがそれを阻んできた。捜査のメスは、入るべくして入ったと言うほかない」